阿部 志郎
①窓辺にくる鳥
二階の寝室から下へゆく階段に通じる廊下の南側に大きな窓がある。
その窓から砂丘の松林に建てられた住宅街が段々畑のように見渡せる。
春めいた朝、玄関の前を通る道路の電線にスズメみたいな鳥が1羽とまっていた。
電線と同じ高さの二階から鳥の様子がよく見える。
ジッと見るとスズメより少し大きく色も濃く頬の部分は白っぽい。
数日後、同じ場所で2羽が2メートルほど離れてとまっていた。
1羽が少し距離を縮めて相手に近づくと同じ距離で逃げる。しかし飛び去りはしない。
その後、一方の鳥が近くの電線に飛び去るともう1羽もあと追って同じ所へ飛び去る。
最初に飛び去ったのが雌鳥で雄鳥が自分をどの程度好いているか試す行動だろう。
我々にも思い当たる微笑ましい光景に、命ある生物共通の恋の方程式をみせてもらった。
そうして、電線に2羽が至近距離で仲良く並んでいる姿をみかけるようになった。
ある日、窓と直角にせりでた部屋壁の換気口に出入りする2羽の姿をみかけた。
やがてピヨピヨと鳴く雛鳥達の声が換気口から聞こえ、2羽の親鳥達が頻繁に餌を運ぶ姿をみかけた。子を思う親鳥の心境がよく判るほどの餌やり回数である。
本能とはいえ、なまじの人間以上のりっぱな愛情行動に思えた。
それから2週間して鳴き声は途絶し、彼等が無事に巣立った事を知った。
ムクドリについて調べたら…スズメ目・ムクドリ科、椋の木の実を好んで食べるので椋鳥。
スズメよりやや大きく一夫一婦制と道徳的にも好ましい。雌雄で抱卵し子育ては夫婦共同で行う習性がある。原則は落葉広葉樹に営巣するが時に民家にも巣を作ることもある。
②トカゲ騒動
初夏の朝、診療所の玄関先で掃除中の職員が院内に走り込む15センチ程のトカゲを見た。
職員の知らせで警戒していたが、階段脇のレントゲン室ドア下にいるらしいと噂がたつ。
受付の職員にも事態を知らせたら、既に床から両足を上げて椅子に座っていた。
爬虫類大嫌いと顔に書いてあった。二階の休憩所でレセプトを書いている職員は、事件を聴きつけ“2階まで上がって来ないですよね”と念をおしにきた。
“大丈夫だよ、階段なんて登れないよ”と太鼓判をおしたものの…30分後、二階からギャーの悲鳴が聞こえた。階段の脇にある5センチ程のスロープ坂を這い上がったようだ。
二階の休憩所でトカゲを遂に発見!畳部屋の隅に追い込こみ、紙袋の中へ捕獲した。
③今年のキョウチクトウ開花が絶好調な理由
ある朝、二階の水洗トイレで水の落ちが悪くなった。業者に修理してもらったら、中庭のキョウチクトウが配水管の隙間から根を侵入させトグロを巻いて詰まらせていた。
作業員は“美味しい物を食べているから根が栄養を吸いに入った?”と冗談を飛ばした。
紅い花をたくさんつけたのはそのためか~ガッテン。同じ高さまで伸びた中庭のキョウチクトウの花を二階の窓からじっくりと眺めた。
(令和6年10月号)