阿部 行宏
はじめに
当会は、市民の医療リテラシーの向上のため市民公開講座等を始め様々な取り組みを行ってきた。しかし、企画者の想いとは裏腹に、市民公開講座等にご参加いただくのは、ご高齢の方や疾病・病気・医療に対して既に何かしらの関わりのある市民が多い。予防や健康増進という観点から、情報に接する機会を増やし、如何に関わりやすくするかの具体策を講じることができずにいた。俗に言う無関心層への具体的な方法が見いだせずにいた。
MIDは一昨年当会で発足した新潟市医師会新潟次世代医療科学研究協議会で企画されたもので、患者が登録した各クリニックの情報や、お知らせ通知、アンケート機能などが主な機能となっている。
スマートフォンユーザーを想定した企画であり、無関心層に対して正しい情報が届けられ、情報収集に関する利便性向上を主な目的としている。一方、医療機関においても患者への情報伝達手段が増え、患者からの医院評価やフィードバックが可能となり、医院運営の一助になればと考えている。
この投稿は、先に行われたMIDニーズ調査にご協力いただいた先生方への謝意をこめ、結果を広くお知らせするためのものである。
ニーズ調査の目的
ニーズ調査の目的は下記3点である。
の3点を把握するため、本調査を実施した。
MIDニーズ調査実施概要
1.アンケート配布状況
2024年8月6日、紙媒体により新潟市医師会A会員(実施時:468名)に配布。また、同月23日には、メール及びFAXで再周知を実施した。
2.返答期間
配布日~2024年8月30日(金)
3.回答方法
Googleフォーム
4.アンケート返答状況
返答数:98件、返答率:21%
MIDのニーズ調査結果 前提
まず、ニーズ調査の結果前提においては、以下4点が導きだされる。
MIDのニーズ調査結果 目的に対しての結論
1.患者への情報伝達におけるモバイルアプリの有効性について
患者の利便性は向上するという回答が6割以上。また、約8割の回答者が医師会としてMIDを活用した市民への周知活動が望ましいと回答(図2)。これらの事からMIDの活用により患者の医療に関する情報取得の利便性は向上することが見込まれる(図3)。また、情報発信の内容については「感染症注意喚起」「急患診療センターに関する事」への回答が多い。「疾病等に関する注意喚起」「制度変更に伴うお知らせ」も周知対象として有効と考えられる。
「急患診療センターに関する事」は、具体的に何を市民に周知するかの検討も必要となる(図4)。
2.患者への新たな情報伝達手段が増える事についての有効性について
患者の情報伝達手段として「院内での掲示」「ホームページへの掲載」が圧倒的に多かった(図5)。そのような状況の中で、情報伝達手段における患者の満足度については、どちらとも評価しがたい結果となっており、新たな伝達手段の必要性は未知数である(図6)。
3.医院運営のプラスになるかについて
患者からの評価やフィードバックを取得する方法として、MIDのアンケート機能を有効に活用することにより、医院運営のプラスになることが考えられる(図7、図8)。
考察等
人の行動決定や行動変容において、情報はとても重要である。「認知」、「興味」、「欲求」、「比較検討」、「行動」と推移する一連のプロセスにおいて、情報はどのように在ることが望ましいのだろうか。
振り返れば、私たちは何かをするとき(意識の外にあるかもしれないが、)必ずと言ってよいほどインターネットの口コミ欄等を見て「比較検討」や「行動」をしている。旅行の宿泊先、飲み会の会場等、様々な場面で情報を収集している。
一方、患者の医療アクセスや適正受診といった場面では、情報はどう在るべきなのだろうか。医療者が望ましいと考える医療アクセスのために、患者・市民に対してどのような手段と内容で情報を提供していくのかは今一度議論の余地があると考えられる。
昨今、某インターネットインフラの口コミで医院集患が左右される事態があり、裁判にまで至っている事例がある(https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1220097)。
推測の域を出ないが、医院運営に患者が自身の意見を気軽に言える仕組みがあれば、このような事態は起きずに済んだかもしれない。様々な分野や過程において、市民参画という表現が一般化されつつある。
MIDの利用により、市民への伝わりやすさが伴った正しい情報配信の下、患者の医療情報の取得、受診行動、患者の意見聴取、市民の意向に寄り添える環境提案の積み重ねを行い、この新潟で患者・市民参画の成熟に繋がることを祈っている。
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(令和6年11月号)