髙橋 美徳
クリニックの鉢植えパキラは丈が2mもあったが、葉は先端に少しあるだけで徒長が目立っていた。熱帯の樹木であるパキラはたくさんの日光を浴びて育つのが正しい姿だが、耐陰性もあって丈夫なため、室内用観葉植物としてもよく見かける。アリがパキラの幹から茎をせっせと走り回っていたので、院内衛生管理上問題ありと考えて周囲にアリ対策グッズを配置した。
幹を40センチほど残すように切り戻し、切り取った遠位部は15センチずつ10分割して挿し木にした。切断面上部には感染と水分蒸発を防ぐ目的で癒合剤を塗り、下面は発根促進剤の水に漬けてから水挿しとした。水質劣化が起こらないように適宜水換えをしながら発根を確認し、鉢に植え替えを行った。断面の創傷処置は正しかったと見えて、株のすべてが生着し新しい枝葉を伸ばしてくれた。
ある時、枝に滴るように透明な液体が連なっていた。何? 水滴? 指で拭って・・・・舐めてみた!
その粘稠な液体はガムシロップ並みに甘かった。そうか!アリはこの樹液を求めて走り回っていたのだ。パキラのように花外蜜腺を持ち、甘い樹液を出して攻撃力の強いアリを誘引し、自身の回りを害虫から守ってもらう植物を「アリ植物」と呼ぶそうだ。アリが巣を作るための腔所を植物体のどこかに作っている植物もあり、アリの立場からしても住処と餌が提供され、ウイン・ウインの相利共生関係が成立している。防御面だけでなく、痩せた土壌で生育する植物の中には、アリが植物上で生活することによって、その排泄物から窒素源やリン酸源といった肥料分を得る栄養共生型のアリ植物も存在する。
多様な生物間の繋がりには学ぶことが実に多い。言葉のないディール、搾取のないフェア・トレードでの生き方を見習いたいものだ。