永井 明彦
ロシアのウクライナ侵攻(宇露戦争)が始まって3年半が経つ。ロシアKGBのチェキスト政権を束ねるプーチン大統領は、戦時統制経済を維持するため侵略を止めない。ノーベル平和賞欲しさに停戦調停に乗り出した米国のトランプ大統領は、ロシアに融和的だ。ロシアのオリガルヒからの資金援助とハッキングや情報漏洩によるロシアゲート事件の恩恵を受け、ロシアのアセット(人的資産)とかKGBの傀儡だとか揶揄されても仕方がないように思う。
彼はテック右派のイーロン・マスクをDOGE(政府効率化省)のトップに置いて連邦政府職員を大リストラした。保健福祉省のNIHやCDCの職員も大量に解雇され、米国医師会や感染症学会は科学を無視する反ワクチン派の厚生長官の辞任を求める共同声明を出した。ガザ攻撃に抗議するデモに反ユダヤ主義のレッテルを貼り、デモに参加した学生が所属するハーバード大をwokeな(目覚めた)リベラル派の温床だとして補助金や留学生受け入れ資格を停止した。究極の反・知性主義だが、教育、研究、学問の独立を脅かす思想統制に繋がる。米国はソフトパワーも失い知的衰退に拍車がかかるだろう。
マスクが反発したメガ減税法案では、富裕層を優遇するため低所得者向け公的医療保険のメディケイドや食料支援予算が削減され、社会補償が劣化して日本人より6歳短い米国民の平均寿命は更に短縮しそうだ。気候変動抑制のためのパリ協定から離脱した上にクリーンエネルギー政策も撤回され、異常気象の深刻化も避けられない。トランプ関税でスタグフレーションに晒される米国民は、テクノ封建制の下でも領主のGAFAMに奴隷のように支配され、米国の貧富の格差がより拡がるに違いない。
エコー・チェンバー効果とAIアルゴリズムのため反権威主義的なSNSに触れる機会が多いが、宇露戦争とトランプ2.0で無理が通れば道理が引っ込むのを見ていると、暗澹たる気持にならざるを得ない。Quo vadis, USA?
(令和7年10月号)