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新潟市医師会報より

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「無用の用」と「無の用」

佐々木 壽英

京都大学特別教授北川進氏は、リチャード・ロブソン教授、オマー・ヤギー教授と3名で2025年のノーベル化学賞を共同受賞された。

受賞理由は、金属有機構造体(MOF)の開発に関する功績である。

この「MOF」は、金属イオンに有機分子が結合して分子レベルの無数の孔を持つ多孔性配位高分子(Metal-Organic Framework:MOF)の1つである。

1986年、ロブソン氏は銅イオンを中心に置き、有機ニトリル化合物を周囲に配置すると無数の空間を持つダイアモンドの様な規則正しく並んだ結晶ができることを発表した。しかし、加熱すると構造崩壊するもろい物質であった。

1995年、ヤギー氏は銅とコバルトが結合した網目構造の材料を発表し、その空間に物質が入ると安定して壊れなくなることを示し、「MOF」と命名した。

1997年、北川氏はコバルトやニッケル、亜鉛などを用いたMOFによる空間の「孔」の中に気体を大量に取り込めることを実証し、構造物に気体を出し入れできることを示した。

そして、1998年に北川氏はMOFを柔軟にできるとしたイメージ図を「フレキシブルMOF」として発表した。

一見役に立たないように見える基礎的研究に北川氏は何故取り組み始めたのか。

北川氏は「役に立つものは、みんな役に立つと分かっているのですが、役に立たないものも実は役に立つんだという非常にひねったような話なんですけれども…」と、荘子の説いた「無用の用」の教えについて語っている。

このMOFの形状は立方体などで、その中は空洞である。この空洞に気体を閉じ込めて貯蔵したり、取り出したり出来るという画期的な技術である。エネルギー問題や環境問題の解決に直結する技術として注目されている。

北川氏は荘子の「無用の用」の教えが研究を続ける力になったと語っている。

中国の春秋戦国時代(紀元前770年~紀元前221年)の思想家には孔子、孟子・老子・荘子など諸子百家がいた。

孔子は「論語」で教えをまとめ、孟子は「孟子」で道徳を重視し、老子は「道徳経」で自然との調和を重視し、荘子は「荘子」で個人の自由と精神的な開放を追及したとされている。

荘子が記した「荘子」は内篇7、外篇15、雑篇11の33篇で構成されている。その中の内篇4「人間世」に幾つかの寓話を載せ、この寓話の趣旨を最後の一文に集約したという。

その最後に集約された一文が「人皆知有用之用、而莫知無用之用也」である。「人は皆、有用の用を知っているが、無用の用を知らない」である。

しかし、荘子と同時代の「老子」も北川進氏の研究の中核となるような教えを説いている。

それをここに記してみたい。

老子は西洋でも重視され、各国語に翻訳されて、分かりやすく解説されているという。

老子研究家の加島祥造氏は南信州の伊那谷に移住して老子の研究に没頭した。加島氏の『タオ・老子、道はない…それが道だ』の中に、ノーベル化学賞に輝いたMOFに通じる記載のあることに気が付いた。

そこで老子について調べてみた。

老子の「道徳経」は81章で、前半は宇宙の根本原理「道(タオ)」の概念、後半ではその道に従って生きるための「徳」が語られている。

老子「道徳経」の第11章「無の用」の一般的な和約は、次の如くである。

「三十の輻、一つの轂を共にす。其の無に当たりて、車の用有り。埴を打ちて以て器を作る。其の無に当たりて、器の用有り。戸篇を穿ちて以て室を作る。其の無に当たって、室の用有り」

しかし、漢文の直訳であり、その言わんとする内容が正確に伝わってこない。

一方、加島氏は老子の第11章「無の用」を加島流に創造訳として書いている。その部分を次に記載しておく。

「老子」第11章、「無之以為用」

「空(から)っぽ」こそ役に立つ

(加島祥造 創造訳詞)

遊園地の

大きな観覧車を想像してくれたまえ。

沢山のスポークが

輪の中心の毅(こしき) から出ているが

この中心の毅は空(から)っぽだ。

だからそれは数々のスポークを受け止め、

大きな観覧車を動かす軸になっている。

粘土をこねくって

一つの器(うつわ)を作るんだが、

器は、かならず

中が繰られて空(うつろ)になっている。

この空の部分があってはじめて

器は役に立つ。

中がつまっていたら

何の役にも立ちゃしない。

同じように、

どの家にも部屋があって

その部屋は、うつろな空間だ。

もし部屋が空(から)でなくて

ぎっしりつまっていたら

まるっきり使い物にならん。

うつろで空(あ)いていること、

それが家の有用性なのだ。

これで分かるように

私たちは物が役立つと思うけれど

じつは物の内側の、

何もない虚(きょ)のスペースこそ、

本当に役に立っているのだ。

2025年のノーベル化学賞は、MOFの空間の有効利用に関する研究である。

この空間の有効利用の理念が、今から2500年前の中国春秋戦国時代に既に教訓として記載されていた。島国の日本では、縄文時代後期から弥生時代のことで、まだ文字すらなかった頃のことである。

北川氏らのMOF開発に関する受賞研究から、既に30年近くが経過している。

この間にも基礎的研究は進歩を遂げ、金属イオンと有機配位子の種類を変えることで孔の大きさや形、性質を自在に調整でき、広い表面積を持ち大量の物質を吸着・貯蔵できるまでになってきたという。

スウェーデンの首都ストックホルムにおいてアルフレッド・ノーベルの命日12月10日に2025年のノーベル賞授賞式が行われた。

北川氏はその受賞講演で「今後は空気中の炭素や酸素を利用する『気体の時代』が到来すると予言し、MOFが役に立つ」と語ったという。

今後は、広大な内部表面積を有するMOFを利用した産業化へ向けた基礎的研究の発展に期待したい。

(令和8年1月号)

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