永井 明彦
ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵略が始まって4年が経ち、米国のトランプ大統領が第二次政権の座に就いて1年が経過したが、今年になって米国はヴェネズエラとイランを軍事攻撃した。ともに国連憲章や国際法を無視して他国に侵攻して恥じない。冷戦時代には対極にあった東西の大国だが、現在の両国の指導者はよく似た政治的な統治傾向を有する。
4年前のこの欄でロシアの専制主義的な「ピラニア資本主義」について書いたが、そのロシアとは異なり、最も民主的で三権分立が確立しているはずの米国に誕生したトランプ政権の異形の統治スタイルを、どのように捉えればよいのか、理解に苦しむ場合が多い。後進国にみられるような古典的な権威主義体制ではないし、寡頭制や君主制や勿論、独裁制でもない。
「家産官僚制」という政治的統治体制がある。『職業としての政治』で有名なドイツの社会学者、マックス・ウェーバーは「国家の指導者が正当な統治権を如何にして得ているか」を突き詰めて考えると二つに集約されるとした。その一つは近代の合理的な「依法官僚制」であり、一方が封建的な「家産官僚制(patrimonialism家産制)」だという。パトリモニウムはラテン語の父:paterと資産:moniumに由来し、家父長制支配が国全体に拡張され、官僚が従属する統治形態を指す。予測不能なトランプ大統領の政治スタイルは、現代では消滅したはずの家産制型統治だと指摘する識者が増えている。
大統領の周辺では「家産制」に与するテック右派が利権に絡んで蠢き、インサイダー取引や壮大な利益相反を通じて「縁故収奪政治(クローニー・クレプトクラシー)」が展開され、憲法や議会も無視され、政治が腐敗する危険が高まりつつある。キリスト教福音派と強く結びついて政教分離など何処吹く風で、イスラエルのシオニストに唆され「ドンロー主義」に反して中東に軍事介入し、原油高を招いた。改めてQuo vadis, USA?と問いかけざるを得ない。
(令和8年4月号)