髙橋 美徳
「かえし」は動詞「返す・反す」の連用形が名詞化した単語。お祝いのお返し、漫才のツッコミに対する返し、買い物の釣り銭、醤油に砂糖やみりんを加えて寝かせたそばつゆのもと、釣り針の針先近くの内向きの突起などたくさんの意味がある。
暖かくなってきて太公望がくり出すと、外来に釣り針外傷の来院が多くなる。釣り針の返しは小さくても掛かった魚がバレにくい、つけ餌が落ちにくいという機能がある。獲物は逃がしにくいが、自分に刺さると厄介だ。返しが組織に引っかかるため、無理に引き抜こうとしても痛くて無理だし、腱や神経、血管束が近い場合は損傷が酷くなるかもしれない。
抜き方には幾通りかあるが、日本の釣り針は魚種に合わせて型と大きさが様々あるため、それぞれに合わせた抜き方を工夫する。受診に当たって同じ針を持ってくると処置がやりやすくなる。針先の位置が皮膚に近ければ局所麻酔下に針先から返しまでを順行性に皮下から皮膚を貫き、返しを潰すかニッパーで返しより先を切って逆行性に抜き去る(アドバンス&カット法)。返しに注射針のベベルを被せて返しを無効化し逆行性に抜き取るニードルカバー法、釣り針の腰に糸を掛けてチモトを押さえつけながらスナップを効かせて糸を引いて抜くString-Yank法も麻酔無しでも可能な方法として紹介されている。
返しのないスレ針もある。キャッチ&リリースを基本とするヘラブナ釣り用の針、ゴボウ抜きにして手返しを早くするカツオの一本釣り用の針、鮎へのダメージを極力抑えて、元気なおとり鮎として使えるようにする友釣り用の針。
食用目的に行う釣りでないスポーツフィッシングであれば、スレ針(バーブレスフック)を用いて魚に優しく、もしも自分に刺さっても軽く済むように釣りを楽しむというやり方がある。返しのある釣り針が残って魚が死んでしまったり、その魚を食べた野生動物が針の被害に会わないように配慮して遊ぶのがマナーではないだろうか。
(令和8年4月号)