西條 康夫
大学に長らく勤務しておりますので、昨今の大学を取り巻く状況についてお話ししたいと思います。新潟大学医学部は、21世紀に入って2つの大きな変革に直面しました。
1つは国立大学法人化です。文科省はその目的を「欧米諸国においては、国立大学や州立大学でも法人格があって、日本の国立大学に比べて自由な運営ができる形態になっているのが一般的です。そこで、日本の国立大学についても、優れた教育や特色ある研究に各大学が工夫を凝らせるようにして、より個性豊かな魅力のある大学になっていけるようにするために、国の組織から独立した『国立大学法人』にすることとしたわけです」と述べています。一方で国立大学法人化の目的は、国家公務員の削減と国の支出の削減という行財政改革の一環であったとの意見もあります。平成16年4月に法人化が施行され、運営交付金は毎年1%減額し、研究費ばかりでなく大学運営に関わる経費にも競争的手法が取り入れられました。その結果、常勤教員の減少と任期付教員・非常勤職員の増加を来し、教員の研究活動時間減少と論文数減少という、法人化の目的とは違った方向に進んでいます。新潟大学も教員の人事凍結という事態に追い込まれました。この問題に文科省は、各大学のミッションの再定義(研究主体大学と地域貢献大学の色分け、順位付け)や指定国立大学制度などで対応していますが、むしろ大学間の序列が強まり、解決には程遠い状況となっています。
もう1つは医師臨床研修制度です。平成16年4月に開始され、その目的は「適切な指導体制の下で、効果的に、プライマリ・ケアを中心に幅広く医師として必要な診療能力を身につけ、人格を涵養する研修する」となっています。臨床研修は法令に基づいた制度で、これを修了しないと医師国家試験に合格しても臨床に携わることができません。研修医は2年間、内科、外科、小児科、産婦人科、地域医療、その他診療科を研修し、総合的な力を身に付けます。しかし臨床研究制度開始後、若い医師は都市部に集中し、地域医療の崩壊を招きました。臨床研修制度では「マッチング理論」という経済理論の導入を行っています。平成30年4月からは新専門医制度が開始され、やはり専攻医の都市部への集中が確認されています。
私は、この国立大学法人化と医師臨床研修制度で、2つの問題がより顕在化したと感じています。それは「大学間格差」と「医療を含めた地方崩壊」です。運営交付金の減少と競争的資金の増大により、資金の過度な「選択と集中」が生じ、大学間格差が増大しました。まだ大学病院には収益の増大が課せられ、臨床系教員の負担が増大しました。地方大学から若い医師が消え、臨床系講座は人的余裕がなくなり、地域医療は大きな困難に直面しています。私は平成20年に東北大学から弘前大学へ異動しました。弘前大学医学部は教員数も研修医も少ないため、教員の臨床と教育の負担が大きく、研究に割く時間が取れない状況でした。このような事態が多くの地方大学で生じ、ボディーブローのように力を削ぎ、国際競争力の低下を来したと思います。
新潟大学医学部は、この2つの変革に対応すべく、卒業生の県内定着と外部資金の獲得に向けて努力を続けてきました。その結果、県内初期研修医の増加など、少しずつ成果も現れてきています。医師会の先生方には、新潟大学の現状をご理解いただき、引き続きご支援をお願いする次第です。
(平成30年7月号)