横田 樹也
我が国には、これまで経験したことのない高齢化社会が訪れようとしています。全ての団塊の世代が後期高齢者に達する2025年には、国民の5人に1人が75歳以上となり、これは、世界中のどの国も経験したことのない超高齢社会に突入することを意味します。これらの高齢者が要介護状態となった場合、既存の医療・介護体制では対応が難しいとされていますが、こんな中、国は、住み慣れた街で最期まで暮らせる仕組み「地域包括ケア」の構築が必要であるとしています。それには、地域で医療・介護に携わる多職種が、行政や地域のコミュニティとの連携強化を推し進めることが大切ですが、高齢者(患者)本人は、自分がどのように生き、どのような最期を迎えたいかという意思を明らかにし、その意思について、日頃から家族や医療・介護従事者が話し合い、考えていく機会を持つことが重要であると言われています。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、将来の医療とケアについて、患者を主体に、その家族や近しい人、医療・介護従事者が、繰り返し話し合い、本人の意思決定を支援するプロセスのことであり、病状の急変時などに心肺蘇生を行わないことを事前に決めるDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)や、患者が将来判断能力を失ったときに、自らに行われる医療行為に対する意向を前もって示すアドバンス・ディレクティブ(事前指示)などの概念も広く含むものです。ACPは患者の人生観や価値観をもとに、将来の医療や介護を患者の希望にあったかたちに具体化することを目標としています。最近、新潟市内でも、医療・介護従事者が集まる会議や講演会において、ACPがテーマとして取り上げられることが多くなってきています。
平成30年3月に厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の改訂案を公表しました。その中では、従来のこのガイドラインの考え方に加え、近年の高齢多死社会の進行に伴う在宅や施設における療養や看取りの増大を背景に、地域包括ケアシステムの構築が進められていることを踏まえ、新たにACPの概念も盛り込むとともに、医療・介護の現場でACPの普及を図ることを目的に、次に記載する①~③の観点からガイドラインの文言の変更や解釈の追加が行われました。①変化しうる患者本人の意思に対し、医療・ケアの方針についての話し合いは繰り返すこと、②患者自らが意思を伝えられない状態になることに備え、家族等の信頼ができる者も含めて事前に話し合うこと、③病院だけではなく介護施設・在宅の現場も想定したガイドラインとなるよう配慮すること。
ACPは医療・介護従事者の中で、誰が、いつ(患者のどのような状況の時に)実践するのか、どのような人を対象に(健康人、病気を有す人、病気が末期状態の人)実践するのか、また、患者が意思決定を行うにあたり、病気や、その経過、治療法、予後について適切な情報提供がなされているかなど、依然、課題も多く、また、ACPが必要とわかっていながらも、実践に躊躇している医療・介護従事者も多いのが実情と思われます。しかし、ACPを促進することで医療・介護従事者が、患者の人生の最終段階において、その患者に合ったより良い医療・ケアを提供することができ、それが、患者のみならずその家族にとっても、最も望ましい結果になることが期待されます。今後、我々医師は、日常の診療の場で、将来的にACPを実践することも意識しながら、患者に対して、病状やその予後などについて情報提供を行うとともに、家族ともコミュニケーションをとることを勧め、加えて、日頃から医療・介護に携わる多職種とも積極的に情報共有を行うことが大切であると考えます。そして、可能であれば、少しずつでもACPを始めてみてはいかがでしょうか。
(平成30年12月号)