白柏 麻子
最近何かと話題になるAI(人工知能)ですが、その“脅威”は日々進化し、近い将来、医療分野においてもなくてはならない存在になることは明らかです。眼科領域でも、ディープラーニングを用いたニューラルネットワークによる画像診断の進歩はめざましく、2018年にFDAが糖尿病網膜症のスクリーニングを行うことができる眼底画像診断システム(IDX-DR)を承認したことは、大きなニュースとなりました。他にも、緑内障や加齢黄斑変性なども、AIによる診断にむけての研究がスピード感をもって進められており、一連の医療行為の中で診断の部分はAIに仕事を奪われ、私たち眼科医がタッチするのは一部の治療(手術など)に限られるという時代がやってくるのかも知れません。
健康診断の眼底読影も、眼科医の出番はなくなるどころか、人間であればどうしても生じてしまう能力差もなくなり、より公平に、しかも低コストで読影ができるようになるのでしょう。人間は休息が必要ですが、機械たちはそんな必要もなく、感情の起伏もなく、ただ淡々と作業をこなすことができるのですから、単純作業をやらせたら人間が太刀打ちできないのは、当たり前のことです。
しかし、AIにも限界があります。AIは莫大なデータベースをもとに作られたブレインなので、教えられた学習に対しては人間以上の力を発揮するのですが、今までに学習したことのない新規事業に対しては、その精度は著しく低下すると言われています。人間のような創造性もなく、また、なぜその診断に至ったのかの説明ができないため、ディスカッションをすることもできません。ですから、私たち人間はAIの出した答えが妥当なものかどうかを常に頭を研ぎ澄ませてチェックし、お互いの得意分野を生かした、人間とAIが協調した医療こそが、未来の望まれる、素晴らしい医療の形となるでしょう。
さて、AI時代到来で、近未来の状況が読めない中、AI時代を生き抜くための教育が不可欠と思われます。AIと共存する世代の今の子供たちは、AIが成し得ない分野、すなわち、企画発想力、創造力、コミュニケーション能力などに軸足を置いた教育が必要と言われています。私たちが当たり前に学んだ主要教科もさることながら、何かとらえどころのない、偏差値での評価が難しい感じのする学問が重要となってくるわけです。
それにむけての取り組みのひとつが、今のセンター試験の廃止と、2020年度からスタートする、大学入学共通テストです。新しい共通テストでは、国語と数学に記述式問題を導入し、思考力、判断力、表現力を重視する内容となるそうです。暗記するだけでは得点できない仕組みを作ることで、AIと共存できる人間を選抜するということなのでしょうか。こうなってくると、将来、医学部受験も様変わりすることが予想されます。AIの出した答えが妥当なものかどうかを見極めるための、今まで通りの知識のほかに、人間力を評価するためのテストが導入されるかも知れません。理数系のトップが合格すると思われていた医学部ですが、いくら学科の偏差値が高くても、人間力の低い人は不合格となる時代を想像するのは、私だけではないと思います。
最後に、どんな時代が来ようとも、今まで学んだ医療と、長年培った人間力を生かして、眼科開業医としての自分を全うしていきたいと思うこの頃です。
(令和元年6月号)