田中 申介
新潟市の救急医療体制は初期救急医療、二次救急医療、三次救急医療の三段階体制から成っている。昨年度までは二次救急医療を担う病院群輪番制の中に外科が入っていたが、今年度から外科二次輪番体制が廃止された。各方面様々なご意見があろうかと思うが、事の経緯について述べる。
外科二次輪番体制は急患診療センターに出務する内科医のバックアップ体制ということでスタートし、10年が経過した。10年前と現在では医療関係者を取り巻く環境も大きく変化し、医師の働き方改革が議論されるようになり医師の労働環境が大きく見直されるような時代になってきた。そのような折、救急医療担当医師の高齢化及び人数の減少などに伴う様々な問題点が提起され、現行の外科二次輪番体制を見直すべしとの意見が外科二次輪番担当各病院から寄せられた。
各病院の意見を集約すると、外科二次輪番時の緊急手術の頻度が非常に低く、当該病院が内科輪番時の方が外科の役割がはるかに大きい。外科二次輪番が対象とする疾患は主に急性腹症であり、外科二次輪番の一次救急担当は外科ではなく内科であると言えるし、救急医療担当可能な医師数は限られているので、輪番とするよりも各病院で内科と外科の連携を図る方が効率的であり重要である。これまで外科二次輪番が担当していた休日・祝日の患者対応については、平日・土曜の時間外体制と同様に各病院において内科と外科が連携を密に図ることで十分対応可能である、といったところであった。
このような情勢を鑑み、外科医会で外科二次輪番担当各病院に対し、輪番担当時の実態調査および外科二次輪番体制のあり方についてアンケート調査を行った結果、急患診療センターに出務する内科医のバックアップ体制としての外科二次輪番の必要性は乏しいことがわかった。このアンケート結果及び各病院の意見を踏まえ、昨年8月に開催された新潟市外科医会総会において改めて検討した。その結果、現行の外科二次輪番体制を廃止しても各病院で内科と密に連携を図っていくことにより新潟市の外科救急医療体制は十分維持できると考えられるので、将来的に現行の外科二次輪番体制は廃止するとの方向性を新潟市外科医会の総意として確認するに至った。その後は各方面との意見調整や検討を重ねながら慎重に協議が行われ、平成31年2月14日に開催された新潟市救急医療対策会議・病院群輪番制参加病院長会議合同会議において外科二次輪番体制を廃止することが実質的に決定されたのである。
今年の2月に厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」より医師の偏在状況、診療科の偏在状況が発表された。それによれば新潟県は医師充足度が全国46位であり、深刻な医師不足状態である。また診療科ごとの2024年に必要となる医師数の見通しでは、新潟県では外科医が646人必要だが、271人不足するとされ、年間44人の養成が必要であると推計されている。これは達成不可能な余りにも非現実的な数字である。結局、今回の外科二次輪番担当各病院の意見が、厚労省の発表により奇しくも裏付けられた格好である。
先の厚労省の発表では、県内7圏域の2次医療圏でみれば新潟圏は「医師多数区域」と位置づけられており、他の圏域に比べればまだいい方である。だが現場の認識は相当厳しいものであり、厚労省の発表とは乖離がある。先日、新潟市の人口が80万人を割ったとの報道があった。若者が減少し高齢者が増えている。新潟県の中でみれば新潟市はまだいい方であるが、県全体では過疎化が進んでいる。つまり要医療人口は増えるが医師は不足したままの状態であり、これでは医師の過重労働に拍車がかかろう。
医師不足により、各医療機関の医師は不規則な長時間労働を強いられ、段々と疲弊していっている。次世代の医療を担うであろう若者は、そのような実態はとうに知っているだろう。自身の家庭の要因(特に子どもの教育環境など)や労働環境などを考慮し医師不足地域での就業に懸念を示したり、救急対応を強いられる診療科を敬遠する医師は増えるだろう。昔とは生活様式が変わり、人々はより快適さ便利さを求め、地方で暮らすより都会で暮らすことに優位性があると考えるようになってきた。となると現在の状況が将来改善される見込みは無さそうである。地域の医療崩壊の時代はすぐそこまで来ているのかもしれない。知恵を出し合い、工夫し、互いに協力しあって地域の医療を守りぬいていくことが、我々、この地域で働く医師に課された使命なのかもしれない。
(令和元年7月号)