西條 康夫
ここ4年ほど、医学部副学部長として、医師不足対策に携わってきました。2019年3月29日に開催された厚生労働省医師需給分科会で医師の偏在指標が発表されました。3次医療圏別医師偏在指標(都道府県単位)で、新潟県は下から2番目に医師が不足している県として発表され、医師会の皆様も報道等でご覧になったと思います。ちなみに最低は岩手県でした。1−3位は、東京、京都、福岡で、大都市圏に医師が偏在していることが一目瞭然です。
新潟県の2036年時点における不足医師数は、上位推計、下位推計でそれぞれ、1,534、1,969名であり、年間不足養成数は、108名で、現在の2倍以上の医師養成が必要となります。一方、東京では、医師養成数は年間1,101名過剰と推計されています。今まで、医師数の必要数は、単純に人口10万における医師数で決定されてきましたが、今回の計算には、人口動態、受療率、医師の労働時間が加味されており、より実態に即した計算となっています。初期研修制度における東京都の割合は募集人員の制限もあり、2018年は15%と以前と比べて横ばいからやや低下傾向を示しています。一方、2018年から始まった専門医研修制度により、専攻医の20%が東京に集中しました。東京都の人口は、日本の人口の11%ですから、医師養成数は過大であることは明白です。このような都市部の医師集中が社会問題化して以降、医学部定員数の増加、地域枠の設定、初期研修募集定員や専門医制度での専攻医のシーリングが行われているものの、根本的な解決には至っていません。
新潟においては、新潟大学医学部と県が協力して、医師不足に取り組み、2018、2019年と県内で研修を開始する初期研修医数が100名を超えるようになりました。少しずつ成果は見えてきておりますが、まだまだ増やす必要があるのは明らかです。新潟県で初期研修医が増えないのは、人口に比べ養成医師数が少ないという問題(新潟大学のみ)の他に、新潟大学医学部医学科卒の県内初期研修医数が50−60名で横ばいであるという、大きな問題があります。つまり県内研修医数の増加は、県内出身の他大学出身者が増えているからということになります。もう少し細かく解析すると、新潟大学医学部卒の県内出身者の80−90%が県内で研修するのに対して、他県出身者は30−40%と低く、一向に改善が認められません。地域枠を設定して、県内学生を増やす努力しても、県内出身者数は、40名前後で増えてはいません。また、学生へのアンケート結果をみますと、研修病院に求めるものとして、経験する症例数や経験できる手技が重要視されていますが、これらは県内県外ほぼ同様と考えられます。一方、県外研修する理由には、地元に帰りたい、田舎は嫌、新潟の気候がいや、などが挙げられます。つまり、県内出身者数が頭打ちで、首都圏出身者の都市部志向の結果であると推定されます。都市部と地方の教育格差や経済格差の問題が大きく横たわっていると考えられます。
医師の偏在は、地域に留まらず診療科の偏在も指摘されています。近年の診療科別医師数推移をみると、精神科、麻酔科、放射線科などが総数に比べて増えているのに対して、外科、産婦人科、小児科は横ばいとなっています。これら医師数の増加が著しい診療科は勤務時間が少ないのに比べて、医師数が横ばいである診療科は、勤務時間が多いというデータがあり、過重労働の診療科は敬遠される傾向にあることが分かります。また診療所の診療科別損益率のデータでは、精神科、皮膚科、眼科が高く、外科、産婦人科は低いというデータが示され、医師数増加率と正の相関が報告されています。労働環境の改善や、診療報酬の改善が診療科の偏在を改善する方策と推測されます。
医師の地域間及び診療科間偏在は、日本だけの問題ではなく、世界共通の問題のようですが、どの国も根本的な解決には至っていないようです。
医師需給推計では、下位推計で2024年頃、上位推計で2033年頃に均衡に達すると予想されていますが、新潟県では、人口減少にも関わらず、2033年時点でも医師不足が予想され、今後も引き続き医師不足対策が必要です。
(令和元年10月号)