熊谷 敬一
長年望まれていた心理職の国家資格制度が2018年にようやく実現された。新規の育成が開始されたとともに、現在は5年間の移行措置期間中である。幸い当クリニックにおいても移行措置により今年1名の公認心理師が誕生した。公認心理師の業務は医療に限らず、福祉、教育、司法、産業などの幅広い分野にわたるため、公認心理師法の所管は文部科学省と厚生労働省の2省が共同して行っている。そのため、国家試験に合格すると発行されるのは免許証ではなく登録証であり、文部科学大臣と厚生労働大臣の2者の氏名が記されている。
医療の分野での公認心理師の中核的業務は心理検査と心理療法である。従来は心理検査は臨床心理士または精神保健福祉士などが行っていたが、今後はそれをそのまま公認心理師が行えばいいのでありあまりは問題はない。問題は、公認心理師が心理療法をどの程度まで行うことが認められるかである。現状では、入院精神療法、通院・在宅精神療法、標準型精神分析療法は医師のみが行うことができる。認知療法・認知行動療法は医師のみが行う場合と医師と看護師が共同して行う場合とが認められている。入院集団精神療法、通院集団精神療法、依存症集団療法、入院生活技能訓練療法等は公認心理師が行うことが認められている。標準型精神分析療法は無条件では難しいかもしれないが、少なくとも認知療法・認知行動療法を公認心理師が医師の指示のもとで単独で行うことが認められなければ心理職を国家資格とした意味は半減してしまうだろう。だいぶ前に公共放送の視聴率の高い番組で、イギリスにおいては中等症以上の重症度のうつ病は薬物療法を行うが、軽症のうつ病では薬物療法は認められず認知行動療法を行うという決まりになっていることが報道され、多数の患者が認知行動療法を希望したということがあった。日本の医療の現状ではそのようなことは実現不可能であるが、今後質の高い公認心理師が多数各医療機関に確保されるようになれば、イギリスと同じことが日本でも可能になると考えられる。
医療においては、多職種が連携する場面が非常に多い。また、他科、他医療機関とも連携する必要がある。当然公認心理師も連携して業務を行う必要があり、公認心理師法において連携して業務を行うことが義務化されている。また、患者に主治の医師があるときは主治の医師の指示を受けなければならないことも義務化されている。このことに背けば登録の取り消しという重い処分が科される規定になっている。移行措置により公認心理師の国家試験に合格した人で登録の申請を行っていない人が数百人ほどいるということであり、その理由の多くは医師の指示に従うことに抵抗があるからだとのことである。従来、医療機関とは別に、私設のカウンセリングルーム等で心理療法が行われていたという経緯があることが基盤にはあるからだろう。長年心理職の国家資格化に向けての取り組みが行われず放置されてきたことの弊害である。今後公認心理師を目指す方々にはチーム医療、医療連携、地域連携の重要性を理解し実践していただくことに期待したい。
(令和元年11月号)