竹之内 辰也
「病院の機能」と聞くと、地域医療構想において盛んに議論される病床機能分化を連想される方が多いと思います。それとは別に、病院の機能や質を第三者機関が評価する国の事業として、「病院機能評価」というものがあります。公益財団法人である日本医療機能評価機構が1995年に開始し、本年2月現在で全国2,163病院が認定を受けています。しかし、受審は全病院の1/4程度に留まっており、認定期間の5年を過ぎても更新を見合わせる病院が増えているため、認定病院数は減少傾向にあります。認定を受けても病院の増収には繋がらない、受審準備のための作業負担が過大である、などがその理由として挙げられます。私が勤務する県立がんセンターは2000年に病院機能評価を初めて受審し、県内では5番目となる認定を受けました。そして今年は4回目の更新受審を予定しています。
審査の内容は、事前に提出する書面の審査と、サーベイヤーと呼ばれる医師、看護師、事務職から構成されるチームによる訪問審査に分けられます。初期の頃の病院機能評価は、病院の体制や規定、マニュアルなどの構造的な側面のチェックに重きが置かれており、病院側が準備しなければならない書類は膨大で、広い会議室全体に展開して陳列を要する程でした。そして当日の訪問審査はまさに重箱の隅をつつくような内容であり、厳しい口調で指導するサーベイヤーは鬼に見えたものです。そのような審査体制にはもろもろの批判があったためか、現在の第3世代の病院機能評価からは書類の審査はやや緩くなり、その代わりに「ケアプロセス調査」が新たに導入されました。これは実際の患者の外来受診から入院、治療、退院支援、退院から外来フォローに至るまでの一連の診療経過を題材に、サーベイヤーが診療チームのスタッフとディスカッションを行い、診療の質評価を行うものです。当院も先回の更新からはこの第3世代を受審しましたが、サーベイヤーの指導に怯えていた以前の審査と比べるとつらさが和らいだのは事実です。とはいえ、病院機能評価の更新にあたっては院内でも毎回その是非が議論されます。「病院にとって何の意味があるのか」「時間と労力の無駄で診療の妨げになる」という否定的見解はある意味ごもっともですが、これまで関わってきた中で私なりに感じている病院機能評価のポジティブな見方を挙げます。まず、病院という巨大組織が安全かつ効率的に業務を遂行するにあたっては、院内共通および各部門における運用管理規定やマニュアルなどの多くの決め事が必要です。しかし、異動や退職に伴って職員が入れ替わっていくにつれて徐々にそれらの存在は忘れ去られ、各病棟や外来などの部署ごとに多くのローカルルールが横行することでさらに形骸化します。5年に1回程度の間隔でそれらを見直すことは、院内での決め事を再確認する良い機会となります。また、病院の中には普段あまり陽の当らない(などと言っては申し訳ないですが)、縁の下の力持ち的な役割の部門もあります。病院機能評価は全ての部門機能を対象にしますので、結果として関わる職員の士気が向上します。そして、このように半年から1年をかけて院内全部門が協力して準備作業を行う過程で、職員の病院への帰属意識や組織としての一体感が醸成されます。
新潟県内では26病院が病院機能評価の認定を受けています。機構のホームページによるところの「地域に根ざし、安全・安心、信頼と納得の得られる医療サービスを提供すべく、日常的に努力している病院」として認められている一方で、その中には昨年厚労省から再編・統合の議論が必要と名指しされた病院も含まれます。もちろん、両者は別次元の評価であることは理解しますが、病院機能評価の認定を維持するために職員は多大な努力をしており、それは結果的に医療サービスの質向上に繋がっているはずです。立派な体裁の認定証がただの紙切れに終わらないような、国の施策を期待したいものです。
(令和2年5月号)