橋本 謹也
4月の下旬に新潟日報に「ユニセフ、麻疹の流行を警告」という小さい記事が載っていたのを気づきましたか?5月には、新型ウイルスの欄に「予防接種中断1億人影響・WHO流行の連鎖警戒」と、前回より大きい記事が載りました。
4月の記事では、2010年~2018年に麻疹1回目の予防接種を受けなかった子どもは世界で推定1億8200万人、日本も38万6千人の未接種児がおり、集団免疫達成には95%が必要ですが、世界平均では86%に留まっていると、ユニセフの報告を載せていました。
5月の記事では、今回の新型コロナの流行によって予防接種の取組が各国で中止に追い込まれ、例えば根絶間近のポリオも接種事業の中断が提言され、再度の拡大が危惧されています。また、2018年に970万人の患者を出した麻疹は、24カ国で予防接種キャンペーンが延期され、1億1700万人超の子どもが予防接種を受けられない可能性があると予測されています(因みに、2018年の麻疹の死亡者数は推計14万2300人です)。ユニセフは、新型コロナ終息後の予防接種再開を勧告していますが、このままでは「予防可能な病気で多くが命を落とす危険がある」としています。日本でも、新型コロナの感染拡大で医療現場は逼迫、また感染が心配で医療機関へ行くのをためらって、予防接種を見合わせる動きが出てきています。日本小児科学会等からは、新型コロナ感染症予防の重要性を認めた上で、極端な制限によって予防できる他の重要な病気の危険にさらされることを避ける必要があり、予防接種を回避するデメリットを訴えております。
さて、日本の予防接種の現状にも少し触れたいと思います。
一時期「ワクチン・ギャップ」という言葉が盛んに使われました。欧米や諸外国に比べて、日本は定期予防接種の数が極端に少ない状況を表した言葉ですが、最近はワクチンの接種数も増えて、欧米に近づいてきました。待望されていたロタウイルスワクチンも本年10月から定期接種化されることが、厚労省の会議で承認されました。また、予防接種の接種間隔改定案も了承され、これまで不活化ワクチン接種後は1週間の間隔を設けていたのが、他のワクチンとの干渉をほとんど認めない事実より、諸外国と同じようにこの間隔の撤廃が認められ、ロタウイルスワクチンと同じく10月より制度改正が図られます(生ワクチンについては今まで通りに27日間の間隔が必要)。また一歩、「ワクチン・ギャップ」の解消が進みます。
それに反して、ワクチンの安定供給という面では非常に心許ないのが現状です。平成29年度のインフルエンザワクチンの供給不足は記憶に新しいことと思います。その他でも、MRワクチン、日本脳炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、ヒブワクチン等々、毎年のように何らかのワクチンで問題が起こっております。その度に供給ストップ等が繰り返されますが、厚労省の机上の計算では供給不安はない、と通知されることがほとんどです。問題が起こる度に小児科医は、ワクチン不足と接種希望の子どもたちとの板挟みの中、苦労しながら接種を続けているのが実際のところです。
現在、世界は新型コロナ感染症一色の状況です。確かに、新型コロナ感染症の予防は重要ですが、同時にワクチンで予防できる病気の管理もしっかりと同時並行していくことが、子どもたちの健康維持のために重要と考えられます。「こんな時でも予防接種を忘れずに!」でお願い致します。
(令和2年6月号)