荻荘 則幸
これは“官”が“民間”に事業・業務を委託する際のキャッチフレーズである。“官”が独自に事業を遂行するより、民間に委託した方が多様なニーズにスピーディ・フレキシブル・チープにできる。令和2年6月持続化給付金の実施に関して、経済産業省は民間業者に委託している。その際に国会で追及されている問題が一般社団法人サービスデザイン推進協議会(電話番号すら公表されていない)という2016年に広告大手「電通」が中心となって設立された法人を通して、その「電通」に再委託された事である。大規模な業務を仕切るノウハウは民間企業の方が優れているということであろうか。またスピーディに実行できるとされている。しかし、さらに「電通」から下請け、孫請け、玄孫請け、とどんどん再々々委託されていき、経産省は事業の適正な執行がチェックできなくなっている。民間の大企業をピラミッドの頂点とした元請け、下請けの図式が日本では昔から脈々と受け継がれてきている。
一般社団法人「新潟市医師会」も新潟市から健診事業、検診事業、予防接種事業、介護保険事業(在宅医療・介護連携センター業務委託)、また新潟県からも在宅医療推進センター事業、さらに最近では新型コロナウイルス感染症関係でも新型コロナ相談外来(地域外来・検査センター)運営委託、また、いわゆるホテルミッションにおける担当医としての協力、等々、“官”からの委託業務が多岐に渡っている。
その中でも急患診療センターは平成18年4月から指定管理者(※)として新潟市医師会が運営してきている。現在まで契約を3回更新して第4期目指定を令和6年3月まで受けている。平成21年4月からは、現在の新潟市総合保健医療センター内に移転し、8科診療体制となっている。新潟市が設置(ということは新潟市立)し、建物、備品等は新潟市所有である。つまり、当該設備は最終的に自治体に帰属し、新たな設備投資は資産計上、減価償却もできない。設備投資が経費とは認められない。従来の「管理委託制度」と違い、「指定管理者制度」は、公の施設の管理、利用料徴収が民間の事業者でも行なう事ができる。管理基準、業務の範囲などは条例で定め、詳細についてはリスク管理表も含め「契約」ではなく「協定」の形式で業務を担うことになる。この制度による民間事業者の選定に関しては、公募をかけ、応募してきた各社、各々の事業計画、収支計画を比較し、審査し、指定候補者を決定する。しかし、急患診療センターはその業務の特殊な性質上、複数の応募がないまま新潟市医師会が管理、運営を行ってきている。新潟市からは運営管理料(令和元年度は約1億3,000万円)の他に、定率の事務手数料が新潟市医師会に支払われている。この急患診療センターをもし、新潟市が公設、公営で運営していくとしたら、現在、新潟市医師会に支払われている管理料、手数料の総額の何倍もかかることと思われる。本年2月末から新潟市にも感染者が出はじめた新型コロナウイルス感染症による患者激減の影響が急患診療センターにも及び、財政的な危機が訪れはじめている。しかし、新潟市民へのセイフティネットの考え方からは、たとえ、患者数が減少し運営経費がかさみチープからエクスペンシブになろうと新潟市における救急医療崩壊をまねかないよう、運営体制の維持は必須である。
※平成15年地方自治法の改正で公共施設の管理は指定管理者に一本化する指定管理者制度が始まった。それまでの委託では自治体は最終責任を問われることもあったが、新しい制度では監督責任までとなった。その大きな目的は民間のノウハウを活かして、効率的な運営を行ない、経費削減し、多様なニーズに柔軟に対応し、サービス向上を目指すということである。官製市場では多様なサービスに対応が困難なため、民間委託し、民間でできることは官では行わないことが主目的である。
(令和2年7月号)