田中 申介
COVID-19の感染拡大に伴い緊急事態宣言が出されていたGWの最中に「お家でキャンプ」が流行っているとのニュースを目にした。私はキャンプに興味は全く無かったのだが、たまたま知人がソロキャンプで使う小さいかまど型の焚火台を「使ってみたら」と持ってきた。それを組み立て実際に使ってみたら、何とびっくり、すごく楽しいのである。それからちょっと調べてみたら、色々な種類の焚火台があることがわかった。それらの中でもsnow peakの焚火台に惹かれた。snow peakは新潟県の三条市に本社を構えるアップルも見学にくるアウトドア用品の世界的企業である。実は数年前、snow peakの前社長(現会長)山井 太氏の著書【スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営】を読んでsnow peakという会社に興味を持ち三条のHeadquartersを見学しに行ったことがある。その際に、記念にとチタンダブルマグカップを購入し、使い勝手が良いので現在も日常で使用している。
そんなことからsnow peakの焚火台を手に入れ、週末に焚火を楽しみ始めた。焚火の燃料は海岸で拾ってきた流木を使っていた。海岸に行くと宝の山が転がっているような気持ちになり、嬉々として流木拾いをした。ところが、最初の頃は気にもしなかったのだが、流木を燃やすとやたらと煙が出るし、流木の中には何かの油を吸っていて燃やすと異臭がするものもあり、周囲の環境によろしくない(ご近所迷惑)ことに気が付いた。それからはちゃんとした薪を使うようにした。薪には針葉樹と広葉樹の薪がある。針葉樹は油分が多いので火付きが良いが、燃焼時間が短いので焚き付け用に使い、広葉樹は火付きは良くないが燃焼時間が長いので、針葉樹の薪で火を熾してから広葉樹の薪を投入する。
さて、焚火もただ薪を燃やせば良いというものではない。いきなり薪に火を付けても火は熾きない。先ずは火熾しから始める。最初、流木を燃料にしていた頃は新聞紙に火を付けたり着火剤などを使っていた。だが、正統な薪を燃料にするようになってからは、自分の中に拘りができてきて、火熾しにも拘ることにした。大原則として着火剤は使わない。ではどのようにするかであるが、先ず炭床の中央に麻紐をほどいてフワフワの毛玉状にしたものを置く。それを囲むように針葉樹の薪を細く切って棒状にしたものを櫓を組むように配置。そしてそれを覆うように針葉樹の薪を重ねる。これで中心の麻紐の毛玉に火を付ければ、それから針葉樹の棒、針葉樹の薪に順次着火していく。ここでファイヤーブロアーで加勢し針葉樹の薪がある程度燃えだしたら広葉樹の薪をそれらに重ねれば焚火の完成である。現在最初の着火にガスライターを用いているが、本来の正統派スタイルを貫くにはファイヤースターター(火打ち石)を用いなければならない。また、更に拘るのであれば麻紐の毛玉の代わりにバトニング(薪をナイフで割る作業)で薪を細くして作るフェザースティック(薪を何層にも薄くカットして作る火付け用の材料)を使用するべきかもしれない。ファイヤースターターと共にバトニング用のナイフも最近は気になっている。
このように火を熾したりすることは一種の儀式のようなもので、それに用いる道具も色々である。焚火を楽しむとは燃えている炎を楽しむだけのものではなく、火熾しからの一連の作業を楽しむことなのである。しかし、焚火も回数を重ねていると、焚火の楽しみは別のところにもあると感じるようになってきた。最初、小さな種火が次第に成長し火勢を増し立ち上る炎となる。しばらく燃えさかった炎は次第に小さくおとなしくなりおきびとなって消えていく。まるでドラマを見ているかのような感覚を覚える。ウイスキーをやりながら、これって人生みたいなものかとふと考える。自分の人生まだ燃えているのだろうか、燃えているならばその炎は美しいのか、はたまた、既におきびとなってしまったか。ウイスキーを友に焚火の炎と会話しながら、1/fのゆらぎの世界に身を任せる。COVID-19に痛めつけられ、ささくれだった心身が徐々にほぐされていくようで心地よい。五感を研ぎ澄ませば、遠くから潮の香りと共に波の音も聞こえてくるようだ(これは妄想)。
この至福の一瞬に今宵も乾杯。
(令和2年9月号)