山本 泰明
子宮頸がんは主にヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因とされ、2017年には上皮内がんを含めると年間2万人が罹患し、約2,800人がお亡くなりになっており、特に好発年齢の20歳代から40歳代女性で患者数が増加しているがんです。
一方、子宮頸がんは「予防できるがん」と言われています。子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)は世界180か国以上で認可され、80か国以上で定期接種されています。 WHOも「安全性と効果の高いワクチン」として強く接種を推奨しています。
御存知のように、HPVワクチンは、2013年4月1日、予防接種法に基づき「定期予防接種」として、小学校6年生から高校1年生までの女子を対象に制度化されました。ところが、このわずか3か月後の6月14日に予防接種後の慢性疼痛と運動障害などの有害事象から、厚生労働省は「積極的な接種勧奨を差し控えるように」と通達を出しました。これにより、それまでの接種率は67.2%であったものがわずか0.1%未満になってしまいました。
有害事象については副作用と副反応が混同され、さらに被害者の視点からのマスコミ報道が過熱した状況は世界的には日本が特別で、同年7月には、WHOが「ワクチン接種と副反応の因果関係は無い」と公式声明を出しました。これも焼け石に水のようで、HPVワクチンは予防接種法に基づく定期接種として継続中ですが、接種勧奨がされないため接種されないままです。
ワクチンの有効性について、新潟大学医学部産科婦人科学教室の榎本隆之教授と関根正幸准教授のグループはNIIGATA STUDYとして20−22歳の女性2,073人を対象にHPV16/18型感染予防に対してワクチンが93.9%と高い有効率であることを明らかにしました。世界的にもHPVワクチンの有効性を確認するデータが蓄積されています。特にHPVワクチン接種と子宮頸がん検診が最も成功しているオーストラリアでは、このままワクチン接種を継続した場合、2028年には新規の子宮頸がん患者はほぼゼロになるとシミュレーションしています。
さらにHPVワクチンは少子化対策にも有用と考えられます。子宮頸がんで子宮全摘が必要になったり、子宮頚部円錐切除が不妊の原因になったり、妊娠中に子宮頸がんが発見され重大な事態になったりしますが、HPVワクチンでほぼ予防ができます。
もう一つ、世界的にはHPVワクチン接種に対する考え方が変わってきています。HPVには100以上の型があり、様々な病気の原因になっています。HPVは子宮頸がんはもちろん、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、膣がん、外陰がんなどの原因とされています。このHPVワクチンは世界標準のワクチンとして、アメリカ合衆国では2014年9月にHPV9価(HPVのうち9型)ワクチンが認可され9歳から26歳の男女へ接種されています。その後、HPVワクチンが中咽頭がんの70%、子宮頸がんの70%、肛門がんの80%、膣がんの60%、外陰がんの40%を予防できるという有効性から2018年にはさらに9歳から45歳の男女へと接種推奨が拡大されました。HPV感染拡大を防ぐには、男女共に接種しないと非効率的という考え方です。世界では男子へも接種推奨をしている国は2018年には77カ国にものぼります。
こうしたHPV関連がんの世界的状況を見て、榎本教授と関根先生のグループは日本人におけるHPVワクチンによる中咽頭がんの予防効果についての実証研究を開始しようとしています。効果を実証するデータが蓄積されればHPVワクチンの積極的勧奨を再開する科学的根拠となります。さらには男女共に接種することになればHPV感染がさらに減らせると考えています。
日本でもついに2020年7月21日にHPV9価ワクチンの製造販売が正式に承認されました。この9価ワクチンは発がんHPVのうち90%の型を含んでいます。ぜひこの機会に、HPVワクチンの積極的勧奨の再開に向けて情報を発信していきたいと考えています。
(令和2年10月号)