熊谷 敬一
診察のときに確認した保険証の資格がさかのぼって喪失してしまうことがある。また、国民皆保険制度により誰もが常に何らかの医療保険に加入しているはずであるが、転職の際などに無保険状態になってしまうこともある。これらの問題が解決されるとすれば、2021年3月から運用開始されるオンライン資格確認に対してかなり期待していいのではないかと思う。運用開始と同時に導入するためには、2020年12月までに利用申請をして、2021年1−2月に接続テストを行う必要がある。なお、補助金申請は2020年11月時点ではまだ受付が開始されていない。
資格確認の流れとしては、まず受診する方にマイナンバーカードまたは健康保険証を持参してもらう。マイナンバーカードの場合は、無償提供される顔認証付きカードリーダーにマイナンバーカードを置いてもらう。本人確認は、カードリーダーの顔認証による確認、または受付事務員の目視による受診者の顔とマイナンバーカードの顔が一致することの確認、または暗証番号による本人確認を行う。このときに注意しなければならないのは、マイナンバーカードを受付事務員が受け取っては絶対にいけないということである。個人番号は現在考えられるなかでは最も重要な個人情報であり、絶対に他人に知られてはいけないものである。所有者が自分でメモをとっておくことも避けたほうがいいが、どうしてもという場合には、例えば動物病院の診察券番号に偽装するなどしてメモしなければならないのである。マイナンバーカードには個人番号の部分を隠すようなカバーが掛けられている。それでも、他人の手に簡単に渡せるようなものではないことは明らかである。健康保険証の場合は従来通り受付事務員が預かり、資格確認端末または連携した電子カルテないしレセコンに入力する。これらの情報を元に医療機関の資格確認端末から支払機関が運営するオンライン資格確認等システムにリクエストを投げて、資格確認端末に資格情報が取得される。
きわめて機微な情報を取り扱うのでネットワークのセキュリティは非常に重要である。医療機関と支払機関のオンライン資格確認等システムとの間の通信経路はインターネットではなく閉域網を利用する。オンライン請求システムが開始された時点では、東西NTTが都道府県単位で運営していた地域IP網が利用されていたが、現在ではそれがIPv6の通信規約に対応した閉域網に移行しており、それを利用するのである。全世界中の誰もがアクセスできるインターネットに比べれば安全性はある程度高まると考えられる。このように医療機関の資格確認端末はインターネットに接続することが全くないのだが、Windows10は定期的にライセンス認証を行っており、それができなくなるとパソコンが使えなくなってしまう。その問題をカバーするために、Windows10 IoT Enterprise 2019 LTSCという定期的なライセンス認証が不要な特殊なバージョンを使用する。また、医療機関内の電子カルテ等と連携する場合には資格確認端末はLANカード2枚差しにして、支払機関へのアクセスと医療機関内のネットワークへのアクセスを分離する。更に、資格確認端末と電子カルテ等システムとの間にルータを設置して、アクセス方向を制御するなど複雑なネットワーク構成が求められている。
このように大変な思いをして導入することになるシステムではあるが、上述の通りレセプトの資格関係誤りをなくしてゆくことができるのであれば大いに結構なことなので是非安全かつ安定的な利用が行われることを望みたい。
(令和2年12月号)