中村 和利
2020年の7月に学術担当の理事に就任しました。私は、2011年より村上市、関川村、粟島浦村の住民の皆様約1万5千人を対象に、地域住民コホート研究(村上コホート研究)を行っています。ホームページ上で研究のデザイン、学術論文の概要版、住民向けの便りを載せていますので「村上健康コホート調査」で検索してみてください(https://www.med.niigata-u.ac.jp/hyg/murakami/gaiyou.html)。今回は村上コホート研究の当初のエピソードを紹介します。
まずは「コホート研究」という専門語についてです。当初より住民の皆様から「コホート研究とは何だ。日本語で言え。」との有り難いお叱りをいただきました。まさにその通りです。コホートとはひとことで言えば「一定期間追跡される特定の集団」というような意味で、なかなか和語や漢語で表現し難いものです。現場では平謝りでした。
初回コホート調査においてできるだけ多くの人の参加を得るため、親しみやすいポスターの作成を思いつきました。当時新潟医療福祉大学の小林量作先生に紹介いただいた新潟デザイン専門学校の学生さんにコンペを行って原案を作り、さらに地元の有志の方に協力いただいて完成させたものが図1のポスターです。村上ですので鮭が主役で、鮭に多く含まれるビタミンDがデザインされています。このポスターを現地のあちこちに貼り(写真)、コホート研究に参加したくなるような雰囲気づくりから始めたのですがその効果があったと信じたいところです。
日本や世界で多くのコホート研究が行われていますが、村上コホート研究には他にない特徴があります。それは、健康寿命に関わる認知症や運動器疾患を対象としていることと住民約9000人の血中ビタミンDを測定したことです。ビタミンDは様々な病気との関わりで近年注目されているビタミンですので、今後多くのエビデンスが得られるものと期待しています。ビタミンDは紫外線により皮膚で産生されますので季節変動が見られます。コホート研究対象者の採血月とビタミンD(25-水酸化ビタミンD)濃度の平均値をご覧ください(図2)。日照量の変化と共にビタミンD濃度も同様に変化します。ところがよく見ると11月から1月にかけてはビタミンD濃度が下がらず、むしろ上がっているようにさえ見えます。何故でしょうか?私は村上名物の鮭によるものと考えています。日本近海でとれる鮭(シロザケ)にはビタミンDが多く含まれており、村上周辺ではこの時期が旬のシロザケを塩引きなどにして沢山食べることが冬場のビタミンD低下を妨げているのでしょう。事実、村上コホート調査のアンケートで得た鮭の摂取頻度と血中ビタミンD濃度には驚くほど強い関連が見られます(図3)。ちなみに、日本食品標準成分表2015年版によるとシロザケのビタミンD含有量は32µg(/100g)とふつうに食べる魚の中ではまいわしと共に最高値で、ビタミンDの食事摂取基準(2020年版)における成人の目安量である8.5µg(/日)と比較するとその量の多さがわかると思います。
今回は村上コホート研究におけるローカルな話題をご紹介する機会をいただき光栄でした。今後ともよろしくお願いいたします。
図1 村上コホート研究のポスター
図2 血中ビタミンD(25水酸化ビタミンD)の季節変動
図3 鮭の摂取頻度と血中ビタミンD(高ビタミンDの調整オッズ比で表示)
(令和3年2月号)