五十嵐 修一
コロナ禍の終息も見えない中、1都3県の都市部を中心に医療逼迫状態が続いています。「理事のひとこと」として新潟市におけるコロナ禍の現状と今後について書くべきとも思いましたが、ワクチン接種準備含め、この原稿が発行される頃の状況の予想がつきません。従いまして、今回はコロナとは直接関係ないところですが、少しでも実臨床にお役立ていただけることを期待して「薬剤使用過多による頭痛」のお話をいたします。
「薬剤使用過多による頭痛(薬剤乱用頭痛)」は、あまり知られていない疾患ではありますが、決して稀な病態ではありません。新潟市民病院の「頭痛専門外来(毎週木曜午前)」では、ご紹介頂く新患の頭痛患者の中で「薬剤使用過多による頭痛」は1-2割を占めています。片頭痛や緊張型頭痛などの患者が、非ステロイド系鎮痛剤、トリプタン製剤、エルゴタミン製剤などの急性期頭痛薬を過剰に使用することにより、もともとの片頭痛などが悪化し、慢性頭痛の状態になったものと定義されます。頭痛持ちの患者が、手に入りやすい市販の頭痛薬を「ひどくなる前に」と予防的に連日内服して発症するケースや、かかりつけ医で頓服として処方された頭痛薬を連日内服することにより発症するケース等があります。国際頭痛分類第3版β版での診断基準では、片頭痛あるいは緊張型頭痛の既往のある患者が、月に15日以上頭痛を認めており、3カ月以上の鎮痛薬の使用過多の状態にあり、他疾患が除外された場合に診断するとされています。
症状は、拍動性頭痛の持続、常に頭重感がある状態ですが、就労、学業および日常生活にも影響を与えています。頭痛があるが、仕事は休めないため鎮痛剤を内服するなどの悪循環が実際に多くの例で見受けられます。また、市販の頭痛薬には、ブロムワレリル尿素を含有する頭痛薬もあり、これらの薬剤の乱用により、「薬剤使用過多による頭痛」に加え、末梢神経障害、小脳失調、高次脳機能障害などの慢性ブロムワレリル尿素中毒症状を併発していることもあり、注意が必要です。
「薬剤使用過多による頭痛」の病態機序として、慢性的な薬剤投与が受容体機能の変調及び、中枢での疼痛に対する閾値の低下を招き、片頭痛発作を誘発しやすい状態にすると言われています。整形外科疾患やリウマチ疾患に対して鎮痛剤を長期に内服していても、この病態が引き起こされるわけではないため、片頭痛の特有の病態機序に直接関連したメカニズムが存在するものと思われます。
治療は、過剰に使用している鎮痛剤を減らすことです。患者にこの病態を知って頂き、鎮痛薬を減らせる場合もありますが、多くは「知っていてもやめられない」状態です。基本的な方針としましては、急性期頭痛薬は一旦すべて中止し、反跳性頭痛と言われる1-2週間のつらい時期を乗り越えて頂くことです。外来での離脱が困難な場合は、入院にて鎮痛薬の中止、予防薬の調整を行う場合もあります。多くの例で慢性頭痛は改善し元々の状態に落ち着きますが、再発するケースも少なからず存在することが治療上の問題点となっています。
薬剤使用過多による頭痛の予防としては、片頭痛の適切な予防薬(バルプロ酸ナトリウム、プロプラノロール等)の導入や強化により、もともとの片頭痛自体の病状を安定化させることが挙げられます。また、「薬剤使用過多による頭痛」という病態があることを患者本人に自覚して頂くことも重要です。カレンダー形式の頭痛ダイアリーを患者本人につけてもらい、頭痛の状態、頻度、そして鎮痛薬の使用状況を患者自身および主治医が確認することが治療上役に立ちます。
コロナ禍での環境変化、また自粛生活を強いられることによって片頭痛が悪くなるとも言われています。鎮痛薬の量も増え、「薬剤使用過多による頭痛」の併発も懸念されますので、ご留意ください。
(令和3年3月号)