竹之内 辰也
パンデミックによって人々の日常生活は一変し、様々な形での制限が強いられています。感染症以外の医療分野においてもその影響は深刻であり、がん医療・がん対策も例外ではありません。2020年度のがん検診受診者数が2割減少しているとの県福祉保健部のデータが、3月27日の新潟日報に大きく報道されました。ご存じの方は多いかと思いますが、新潟は全国屈指のがん検診受診優良県です。2019年の国民生活基礎調査では、新潟県民のがん検診受診率は胃がん43%、肺がん50%、大腸がん41%で、それぞれ全国平均を10%程度上回っています。また2017年の全国がん登録では、本県の新規がん患者20307名の内で発見経緯ががん検診・健診・ドックであった割合は18.5%で、全国4位でした。その効果は、全国のがん診療連携拠点病院が行っている生存率共同調査データに明確に表れています。本県から2010−11年に登録されたがん患者の5年相対生存率は、胃がんで全国1位、肺がん2位、乳がん2位、大腸がん3位でした。ステージ別では、胃がん、肺がん、大腸がんにおいてⅠ期の占める割合がそれぞれ全国トップであり、本県における良好ながん生存率は、高い検診受診率に基づく早期発見・早期治療の促進に裏付けられていることが分かります。これは新潟の人々の律儀な県民性に加えて、当医師会メディカルセンターのような検診事業関係者の努力の賜物と思われます。それだけに、今回のがん検診受診者の激減というのは由々しき事態です。欧米ではコロナ禍の受診抑制によるがん患者への負の影響が多数報告されており、がんの診断が1年遅れることで5年後の死亡リスクが肺がんで5%前後、乳がん8−10%、大腸がんでは15−17%も高まるというイギリスの試算データがあります。県や各市町村はホームページ等でがん検診・健診への受診を盛んに呼びかけており、今後も継続的な啓発活動が求められます。
ちなみに、私が専門としている皮膚がんにおいても巣ごもり傾向は例外でなく、がんセンターの2020年の新規皮膚がん患者数は2割ほど減少しました。皮膚がんは人口高齢化を背景に近年増え続けており、自然に罹患数が減ったとは考えられません。やはり、早期受診を促すための掘り起こしが必要です。原則として無症候者が受診するがん検診とは異なり、皮膚がん保有者は自分の皮膚の異変には必ず気付いているはずですが、悪性とは疑わないために受診が遅れます。以前に当院で行った皮膚がんの病歴調査では、3割以上の患者は最初に皮膚科以外のかかりつけ医に皮疹を見せています。もし皆様のクリニックでも怪しげな皮疹の相談をされることがありましたら、ぜひ最寄りの皮膚科への受診をお勧めください。
(令和3年6月号)