田中 申介
ALDERSON社に勤務するベス・エムホフは香港出張から米国に帰国後、体調不良から突然死亡。その頃、香港では青年が、ロンドンではモデルの女性が、東京でもビジネスマンが突然死亡。その後、同様の死亡例やクラスターが世界各地で発生。バスの中で突然死亡する人の様子がYouTubeへ投稿されると瞬く間に世界に拡散、人々は恐怖におののく。CDCは調査のために香港にドクターを送り込み、患者と濃厚接触者の隔離を進め、死亡患者の血液検体を集めウイルスの起源を突き止めようと必死になっていたが、その調査員も感染し死亡してしまう。CDCが「恐怖の要因はテレビやネットの噂を信じることであり、感染予防の最善策は人との接触を避け、頻繁に手を洗うことである」と呼びかける。だが有効な治療薬がネットで話題になると、それを信じた人々はそれを求めドラッグストアに殺到。しかし在庫切れがアナウンスされると我先にと店内に押し入り強奪が始まり暴徒と化す。感染源の追求のため香港を訪れていたWHOの職員はベス・エムホフがマカオのカジノでATMを利用していたことを手がかりに、カジノの監視カメラの映像を分析し、それまでに確認されている複数の感染者とベス・エムホフが接触したことを確認した。だが、誰が最初の感染者なのか特定することはできなかった。その後、感染源は不明であったがMEV-1ワクチン(MEV-1とはウイルスの名前)が開発され国民の接種順位が誕生日別に抽選で決定された。接種は野球場などに大規模接種会場を設置し行われ、そこではマスクをした人々が行列をなし接種の順番を待つ光景が繰り広げられた。政府高官やCDC幹部にはそれとは別枠でワクチンが割り当てられていた。そしてワクチン接種が進むにつれて人々は日常生活を取り戻していった。そんな中、ベス・エムホフの夫は、妻が残したデジカメ内の香港出張中の写真を見つめ、在りし日の妻の姿を忍び涙ぐむのであった。
以上は【コンテイジョン(contagion:接触伝染、感染、(接触)伝染病)】(写真1)という映画の概要である。雇用調整のために休診日を設けた9月のシルバーウィーク中に字幕版の映画を見ようと思い、内容も見ずにたまたまamazon prime videoで選択した映画だった。あまりにも現在のコロナの状況と似ていたので、「ハハーン、さては現在の状況をドラマ仕立てにして最近制作した映画だな」と視聴している時は考えていた。ところが後に2011年の作品であると知ってびっくりした。まるで現在の状況を予言しているかのような内容であった。私は知らなかったのだが、この映画のことはネット上では以前から話題になっていたようである。
映画の中で一番衝撃的だったのは最後のシーンである。暗闇の中、ALDERSON社と社名の書かれたブルドーザーが森林をなぎ倒していく。居場所を奪われたコウモリは飛び立ち、養豚場まで飛んでいく。豚舎の天井に止まったコウモリがくわえていたバナナを落とすと、下に居た豚がすかさずそれを食べる。その豚を素手のまま捌く料理人。捌いている途中呼ばれたので、豚の血が付いた手をエプロンでぬぐい駆けつける。そこにベス・エムホフがいて二人は握手する。その様子は香港出張中の最初の写真としてデジカメに残されていた。全てが繋がった。
この映画ではワクチン接種が進むにつれ、人々がかつての平穏な日常生活を取り戻していくのだが、果たして現状はどうであろうか。
デルタ株といわれる感染力の強い変異株の影響で第5波といわれる感染拡大の真っ只中で緊急事態宣言発出、その一方で東京五輪開催というわかりにくいメッセージに国民は翻弄され、長く行動が抑制されていた。新潟市でも宿泊・自宅療養者数が過去最高となり、担当された先生方はさぞかし暑い夏を過ごされたことと推察する。そして何故だかわからないが全国的に感染が収束に向かい、10月にようやく緊急事態宣言が解除された。10月8日付け日本経済新聞の記事によれば、米ジョンズホプキンス大の発表で、世界の新規感染者数(7日移動平均)は43万人と、8月のピークから4割弱減少し、2週間前と比較して感染者が減少傾向にある国の数は、9月に増加傾向にある国の数を逆転し、足元では世界の3分の2近くに達したとのこと。ハンマー アンド ダンスという概念がある。感染制御のために市民の行動を制限する施策をハンマー、行動制限を緩和し経済活動を重視する施策をダンスと例え、感染制御と経済活動のバランスをとるという概念である。ワクチン接種が進んでいることも相まって、10月からは行動制限を緩和し経済活動を重視する、いわばダンスの時期に入ったような雰囲気になってきている。新潟市でもここ数日は感染者数がゼロの日も散見される。一般人は長い自粛生活から解放され、ようやくダンスが踊れると考えているかもしれない。しかし感染が完全に終息したわけではないので、医療従事者の立場ではダンスに興じること無く、ハンマーを打ち下ろし続けるしかないのが実状であろう。この原稿が医師会誌に掲載される頃(年末)には日常生活はどうなっていることだろう。6月下旬以降に相次いでリリースされた次の2曲を聞きながら、穏やかな年の瀬を迎えていることを祈るばかりである。
NGT48【Awesome】(写真2)歌詞の一部抜粋
ずっと夢見てた今日が来ること
そんで自由を手に入れた
オールナイトで騒げ!
BTS【Permission to Dance】(写真3)歌詞の一部抜粋
The wait is over
The time is now so let’s do it right
Yeah we’ll keep going
And stay up until we see sunrise
両曲とも、長いコロナ禍を抜け、希望にあふれる時がやって来た喜びを歌っていて、歌詞の内容も酷似している。秋元 康とエド・シーラン、これがいわゆる一流の感性か。NGT48の元オタク、BTSの俄かファンの私としては、これらの曲を聴くと何か楽しい気分になり、励まされる気がする。興味のある方は是非一度ご試聴あれ。
余談だがBTS【Permission to Dance】のMVでは希望の象徴として至るところで、たくさんの紫色の風船(写真4)が現れる。紫色は、BTSとARMY(BTSのファンの名称)のテーマカラーとのことだが、私にはCOVID-19ワクチン「コミナティ筋注」のキャップの色に見える。ワクチン接種が進んだおかげで日常を取り戻すことが出来たというメッセージがMVに込められている、と勝手に想像している。
写真1
写真2
写真3
写真4
(令和3年12月号)