熊谷 敬一
2021年3月に予定されていたオンライン資格確認の本格運用が、7か月遅れて2021年10月に開始された。今年に入って自院でも導入したので、気が付いた点をいくつか記させていただく。
オンライン資格確認等システムは社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会により共同で組織される医療保険情報提供等実施機関が維持、運営する非常に複雑で大規模なシステムである。接続はインターネットを経由しないでオンライン請求ネットワークにより直接行う。従来のオンライン請求も同じネットワークを使うのであるが、オンライン請求は通信規約としてIPv4を用いるのに対して、オンライン資格確認はIPv6を用いるのが最も大きな違いである。IPv6により高速な通信が可能であるが、グローバルIPアドレスであり、外部と内部とで同じアドレスを使うため、規定に従って正しくセキュリティの設定を行わないと情報漏洩などの危険性が高まってしまう。マイナンバーカードを利用するシステムなのでなおさら高度なセキュリティが要求される。DNSサーバーの設定をすればIPv6アドレスが端末に配布されて接続自体は容易に行うことができる。
このようにインターネットから隔絶されたシステムであり、端末をインターネットに接続することは全くないので、通常インターネットを介して行うソフトウェアのアップデートをどうするかという問題がある。この問題を解決するために、オンライン資格確認等システム内にあるプロキシーサーバーを通して端末内の配信アプリケーションがウインドウズも含めて自動でソフトウェアアップデートを行う仕組みになっている。先日、このアップデートにより端末内アプリケーションの動作に障害が引き起こされ、資格確認が数日間できなくなるという事象が生じたが、今後はこのようなことがないようにしてもらいたいと思う。
資格確認の方法は複数用意されている。1つはウェブアプリケーションによる方法である。ホームページ閲覧のような感覚であり、オンライン資格確認端末単独で簡単に利用できるのが特徴である。この方式で保険証およびマイナンバーカードのどちらも資格確認はできるが、手入力の部分があるとか、顔認証付きカードリーダーが使用できず、別の汎用カードリーダーを用いなければならないなどの制約があり使いにくい印象である。
資格確認のためのもう1つの方法が連携アプリケーションを利用する方法である。連携アプリケーションが各医療機関の既存の電子カルテやレセコンとオンライン資格確認等システムとを連携させる。具体的には資格確認端末内の要求フォルダや結果フォルダを電子カルテ等が共有して、要求ファイルを書き込み、結果ファイルを読みに行くのである。この方法を利用するためには既存の電子カルテやレセコンにそのための機能を持たせることが必要である。また、既存の電子カルテ等を脅威から守るため、フォルダ共有がファイアウォールを設けてステートフルインスペクション機能により一方通行で行わなければならないと定められている。つまり、ルーターを増設するか、または、vlanを作成して内部ネットワークを分割しなければならない。電子カルテ等がうまく対応してくれれば、カルテの表紙に新設された小さなコマンドボタンをクリックして数秒で資格確認ができるようになるとか、カルテ表紙の大部分の項目を一瞬にして記入できるようになるとか、当日予約されている患者の資格をあらかじめ一括して確認しておくなどのことができて、非常に有用性が高い方法といえる。5,000人分まで一括して資格確認できる仕様になっている。受け付け窓口の業務を省力化する上で役立ち、規模の大きい医療機関ほどそのメリットは大きいといえるだろう。
顔認証付きカードリーダーも非常に有用である。画面の指示に従いマイナンバーカードをカードリーダー部分に静置して、画面の枠内に顔を合わせると一瞬にして認証がなされる。私が試した限りではマスクをしていても全く問題なく認証された。認証された後はタッチパネルの同意するボタン等を何回かタップして終了である。カードリーダー部分からマイナンバーカードを取り去った後に資格確認端末のフォルダに結果ファイルが生成されるので、電子カルテ等で読みに行くのである。しかし、問題はマイナンバーカードを利用する患者がほとんどいないことである。一般的な認識として個人番号は高度な機密であり、マイナンバーカードを人前で取り出すということ自体抵抗を感じる行為であると思われる。オンライン資格確認端末から薬剤情報と特定健診情報も参照できるが、その条件としてはマイナンバーカードを使用して同意した患者に限られているので、現状ではこの機能もほとんど利用できない。
マイナンバーカードはポイント付与のインセンティブなどもあり徐々に普及しており、普及率は2022年3月1日時点で全国では42.4%だが、新潟市は34.9%とまだ少なめである。なお、オンライン資格確認導入率は2022年2月27日時点で新潟県では、病院が35.8%、医科診療所が7.1%、全体では11.5%とのことである。対応する医療機関のリストが厚生労働省のホームページに掲載されている。今後さらに導入する医療機関が増加すると予想されている。また、保険診療上の点数化が決定されており、オンライン資格確認等システムを通じて患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して診療等を実施することにより、電子的保健医療情報活用加算が算定できるようになる。点数は初診料に7点、再診料に4点、外来診療科に4点をそれぞれ月1回に限り上乗せ可能である。なお、オンライン資格確認を導入しており健康保険証またはマイナンバーカードで資格確認を実施した場合、薬剤情報又は特定健診情報等を取得しなくとも、2024年3月31日までは、初診料に3点を月1回に限り上乗せ可能である。点数化により更なる導入の促進が期待される。
非常に有用なシステムであるが、個人情報を取り扱うので情報漏洩等の事故が絶対におきてはならず、ネットワークおよび使用する機器は適正に設定、管理されて運用されなければならない。その上でこのシステムが幅広く利用されることが望ましい。
(令和4年3月号)