竹之内 辰也
電子カルテと私との付き合いは、かれこれ20年近くになります。がんセンターでは2006年に電子カルテの前身としてNECのオーダリングシステムを導入し、その2-3年前に院内協議のまとめ役を命じられました。とはいえ、そもそもシステムの知識など全く持ち合わせておらず、「ベンダー」「サーバー」「クライアント」などのごく基本的なIT用語の意味すら分かりませんでした。当時の椎名誠副院長に「お前は院内に敵がいない」とか「全ての部署に出入りしている」とか、今にして思えば意味不明の口説き文句で引き込まれ、それ以来ずっと院内の要望・苦情を吸収するサンドバッグ役を務めています。その後、2008年にMegaOakという電子カルテシステムを追加導入しましたが、当時はまだ電子カルテとは名ばかりであり、紙カルテとの併存でほぼオーダリングのみの運用でした。病院機能評価においても「こんなのは電子カルテとは言えない」とサーベイヤーから酷評された苦い思い出があります。2014年にはシステムを全面更新してペーパーレス運用を開始し、2021年には同じバージョンの電子カルテシステムながらハードウェアの全面入れ替えを行いました。
新たなシステムの導入や、運用を大きく変更するにあたっての最大の抵抗勢力は医師です。特に2014年のペーパーレス化に向けた準備作業と、始まってからしばらくの混乱ぶりは凄まじいものでした。廊下で誰かとすれ違うたびに必ず苦情やお叱りを受け、ひたすら頭を下げ続けました(幸い自分はそこに全く抵抗がありません)。しかし数か月もすると、不思議なくらい紙カルテ廃止などに関する苦情は減りました。やはり院内のどこに居ても患者の状態が随時把握できて、なおかつどこからでも指示が出せるという利便性は高く、徐々に電子カルテのメリットを実感したためと思われます(もしくは諦めたのかも知れません)。さらに、システム更新に際しては多額の予算が組まれるため、ここぞとばかりに各診療部門からの便乗要望が殺到します。全部受け入れていたら予算をはるかに超過しますので、そこは委託した外部コンサルを交えて取り捨て選択を行い、あとは自分が各方面に頭を下げます。そんなこんなで病院情報システムの責任者を長年務めてきました。今でも電算関係の専門的なことは分かりませんが、院内での決め事は概ね自分が関わってきたので、細かい運用面だけは一番詳しいと自負しています。ただその弊害として、未だに「ここの文字列を太字にしてくれ」とか「予約枠を減らしてくれ」などの依頼が直接自分に届きますが、いつも快く?対応しています。
地域包括ケアシステムの導入に伴い、地域の医療機関に分散する患者の診療データを統合・共有して、スムーズな地域医療連携を実現するためのICTネットワークの構築が求められています。国の旗振りもあって全国で約250の地域医療ネットワークがこれまで立ち上がりましたが、運用コスト等を含めた多くの課題のために施設参加・利用率が伸び悩んでいる地域が多く、SWANネットも例外ではありません。お互い電算ベースで持っている情報をあえて紙媒体で作り直してやり取りする非効率さを痛感する一方で、昨今のランサムウェアによる病院サイバー攻撃は管理者にとって深刻な脅威であり、セキュリティの強化も求められています。様々な課題はあるものの、地域医療構想において機能分化と連携を推進する上でもICT連携が重要であることは確かであり、少しずつ前に進めていかなければならないと感じています。
(令和4年9月号)