五十嵐 修一
厚労省の班会議によりますと認知症は、2025年には約700万人に達し、65歳以上の5人に1人が認知症となると予測されています。還暦を過ぎた小生にとっても他人事でもない話となってきました。そこで認知症の6割強をしめるアルツハイマー型認知症に関しての最近の話題についてひとこと述べたいと思います。
アルツハイマー型認知症の症状が臨床的に顕在化する20年以上前から神経病理学的には、脳にアミロイドβが蓄積し始め、それが発症病理に関連すると考えられています。アミロイドPETの技術によって、発症前からアミロイドの蓄積が検出でき、将来、アルツハイマー型認知症になるかどうかの予測が可能となっています。現状では、この検査は、研究目的か、臨床的に必要な場合でも保険収載はされてないため自由診療で限られた施設で行われているのみです。自分が10年後20年後にアルツハイマーになると言われても現状では為す術がないので、それは「知らぬが仏」と思っていたところです。ところが、認知症診療においてこのアミロイドPETの臨床的な必要性が俄かに高まる新たな状況が到来しつつあります。
アミロイドβに対する抗体を作成し、免疫反応を利用して脳内からアミロイドβを除去する治療の試みは四半世紀以上前から行われていました。1999年にアミロイドβのワクチン療法でモデルマウスのアミロイドβが脳から消失することがNature誌上に報告され、間もなく欧米で治験が開始された頃は、アルツハイマー型認知症の根本治療法の確立も近いものと神経内科医としては当時かなり期待していました。しかしながら、2003年に脳炎の副作用で治験は頓挫しました。その後も、多くの製薬会社、研究所で膨大な研究費を費やし、アミロイドβに対するモノクローナル抗体を作成、治験という大変な過程を繰り返しつつも、良い成果は得られませんでした。アミロイドβの脳での蓄積を減らすことはできても、臨床的に認知機能障害の進行抑制、改善という結果は得られなかったということで暗礁に乗りあげていたようです。そうした状況の中で、ここにきてエーザイとバイオジェンが開発したアミロイドβプロトフィブリルに対するモノクローナル抗体(レカネマブ)が、臨床治験で認知機能低下の抑制効果を示すことができ(N Eng J Med, 5; 388(1): 9-21, 2023)、先日(7月6日)米国FDAでの正式承認を得るに至りました。アルツハイマー型認知症での初めての疾患修飾薬として本邦での承認も遠くはないものと見込まれ期待が高まっています。高額な治療となるため、また、副作用の問題もあり、診断を確たるものにしてから治療導入となります。そこでアミロイドPETが活用されることになりそうです(PETの他に髄液検査で診断基準を満たした場合でもよさそうです)。治験では、対象者が軽度認知症またはMCI(軽度認知機能障害)でしたので、同様な基準が設けられるかもしれません。
診療する側からは、治療対象者数がどのくらいいるのかが気になるところです。アルツハイマー型認知症の中の軽症(初期)が対象としても、新潟市内でも相当数が潜在的な治療対象者となりそうです。検査治療希望者がどの程度になるかは予測できませんが、適応を決めるPETや髄液検査が施行できる医療機関は、新潟市内でも限られますので病診連携、病病連携の準備、対応が必要かと思われます。
(令和5年8月号)