山口 雅之
白内障手術では、混濁した水晶体を乳化吸引で除去した後に、眼内レンズを挿入することで視力を改善させます。手術後の焦点の位置は眼内レンズの度数の調整で、手元から遠方まで自在に決めることができます。現在では眼内レンズの設計技術の進歩により、様々な種類の眼内レンズが使えるようになってきました。ここ数年、多焦点眼内レンズの挿入を希望されて来院される医師の方が増えているのは、電子カルテの普及で、日常診療の中でパソコン画面を見る機会が多くなっているからと思われます。
今、国内で認可されているのは、従来からある焦点が一つの単焦点レンズ、焦点が二か所に合う二焦点レンズ、焦点が三か所に合う三焦点レンズ、焦点の幅を広げた焦点深度拡張型(EDOF:Expanded Depth of Field)レンズ、焦点の幅を更に広げた連続焦点型レンズ、そしてウェーブフロント理論で設計されたX-EDOFレンズです。個々の患者さんの手術後の見え方の希望に合わせて、使用する眼内レンズの選択をすることになります。日々眼内レンズは進化しており、ネット検索で出てくる多焦点眼内レンズに関する古い情報は全く参考にならなくなっています。
単焦点眼内レンズ以外の多焦点眼内レンズは全て選定療養の対象となっており、入院の際の差額ベッド代と同じように、眼内レンズ代の差額を自己負担することになります。多焦点眼内レンズの術後の見え方に不安がある場合や、自己負担分の金額がネックとなって多焦点眼内レンズを選択できなくても、焦点の幅を広げたい場合には両眼の焦点位置をわずかにずらすmono visionという選択肢があります。このmono visionも患者満足度の高い方法です。
すでに他院で手術を受けられた患者さんが、多焦点眼内レンズへの入れ替えを希望して来院されることがありますが、一度眼内に挿入した眼内レンズは、よほどの理由がなければ、リスクを冒して入れ替えることはしません。手術前に執刀医とよく相談して、使用する眼内レンズの種類を自分で決めなければならない時代となっています。
(令和6年2月号)