高橋 英明
新型コロナウイルス感染症のパンデミックがはじまって4年が経過した。当医師会の浦野正美会長はその禍中より現在の役員と共に新体制で感染拡大防止の舵取りを始めることとなった。私も監事として役員の仲間に入れていただいた。
浦野会長は誰も経験したことの無いこの災害における医師会運営で連日のようにその対応に追われ、会議を重ねていったのを思い出す。いかに大変な対応であったかは当医師会報の特集記事を参照されたいが、副会長や理事らもコロナ対応を行うとともにそれぞれの本来の事業も続けられ、毎週のように新潟市や保健所との会議をこなしていく姿を私は見させていただいた。
時を同じくして、たまたま脳神経外科の先輩からリハビリテーション大学での臨床神経学の講義のお話をいただき、そのついでに興味を抱いていた公衆衛生学の講義も行うこととなった。
臨床神経学は当然、自身の専門でもあり、大学勤務時の医学生への講義はもちろん、現在も研修医や新潟大学の臨床実習の学生も受け入れて講義をしていることから、この講義の申し出は新たに講義用のスライドを作成する良い機会と捉えて準備を進められた。
一方、公衆衛生学は当然実践の経験はないが、父が保健所勤めだったことや、学生時代の「ハーバードがんちゃん」こと衛生学の渡辺厳一教授の強い印象から興味を持っていた。とは言え、教えるにあたっては、最新の教科書を2冊通読し、自分の言葉でまとめ上げて分かりやすく話そうと考えて準備を行った。
学生に教えるべく、20項目程を選定し、疾病リスク、健康増進、疫学、医の倫理、保健統計、EBM、感染症、がん予防、食品保健、メタボ予防、医療安全、環境保健、母子保健、学校保健、産業保健、職業病、高齢者の医療と介護、災害保健、国際保健、障害者福祉、保健所の役割、地域医療等と並べてシラバスを作成しながらも、いつも医師会の理事らが話していることが脳裏を掠めていた。
勤務医にとって、公衆衛生学の実践の場はほんの狭い一部であったが、医師会においては極めて多くの活動をそれぞれの理事が計画を立てて実践していることをこの4年間で実感した。今回のパンデミックは医師会や保健所等からの声がけにより、多くの医師会員の先生の協力を得ながら未知の感染症を乗り越えられたことを、「感染症」の講義で学生たちに紹介していきたい。改めて医師会の会長、副会長そして理事の方々には頭が下がる思いである。
よく「医師会に入って何かメリットがあるか」という話を聞くことがある。互助会的なメリットを期待しているのかもしれないが、そういうものではない。金銭的、物品的なものでもなければ、ステータスなどの問題でもない。
我々医師が国民のためになるべく働いていく上で疾病の治療を行うだけでなく、予防や健康維持を行える環境を整えていく使命もあるものと考える。医師として個人でできること以外に、医師会という纏まりの中に身を置いて、公衆衛生を実践することができることは、その使命に沿った行動であろう。
医師会に入って、「公衆衛生を実践する」というやりがいを見出すことができるというメリットを医師会員のみならず、すべての人に伝えていくことが必要なのかもしれない。
(令和6年4月号)