五十嵐 修一
今年度より医療法で定める「医師の働き方改革」が施行され、既に半年が経過しようとしています。勤務医の健康確保と長時間労働の改善を目的に行なわれた働き方改革ですが、各病院におかれましては勤怠管理の徹底、宿日直許可申請、医師面接体制等の準備でかなりの労力を割かれたものと察します。
この改革は勤務医を対象としたものですが、地域の救急医療体制に影響を与えうる可能性がある一方、診療所の先生方には全体像は見えにくいものかもしれませんので、まず、概略を簡単に説明します。小生の所属する病院を含め、ほとんどの病院で試行されているA水準に関してですが、
①時間外労働時間が年間960時間以内、連続勤務時間制限28時間(A水準では努力義務)、勤務間インターバル9時間の確保を行う(A水準では努力義務)。
②追加的健康確保措置としての医師の面接指導の実施:時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる医師には、面接指導を実施することが義務となる。該当の月に面接を行うことを原則とする。
③自己研鑽と労働の区別を厚生労働省の通知を基に各医療機関で明確にして周知する。
④宿日直中に従事する業務は、一般の宿日直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること等々、宿日直基準に従い労基署へ宿日直許可を得ること、等です。
今回の注目点としては、②の長時間労働医師への面接実施が義務付けられたところが挙げられます。3次救急を担っている当院では、毎月の超勤100時間越えが見込まれる医師は5名前後が面接対象となり、原則当該月末までに面接を行っています。面接する側の医師も事前に厚労省のe-ラーニングと簡単な試験を受けて「終了証書」を得た医師が面接官となっています。小生も面接官のひとりとなり、既に複数名の面接を経験したところです。睡眠状況、疲労の蓄積度、抑うつ傾向はないか等のチェックが主な目的で、リスクのある医師は業務軽減処置をとることとなっています。現在までのところでは、対象医師は専攻医など若手医師が多い傾向にありますが、健康状態に関しては概ね「元気です。健康状態は全く問題ありません」との返事を頂き、むしろ体力の有り余っている元気な若手医師を拾い上げている印象でした。医師の時間外労働の短縮のために時間外の緊急手術での待機時間を短くすべきと病院運営に関しての建設的な意見を頂くこともありました。長時間労働で疲労困憊の医師を拾い上げることが、この面接制度の目的です。しかしながら、現状の面接制度では、時間外労働時間が年間960時間以内におさめるという点ではある程度の効果は期待できそうですが、過労困憊の医師の拾い上げという点で有効かどうかはなかなか難しいのではないのかという印象でした。精神的なストレスで負担がかかっている医師、疲労が蓄積している医師に病院として早い時期に対応するには労働時間だけのスクリーニングで十分なのかは疑問もあるところです。早い段階でスクリーニングする方法、例えば、いろいろな問題を相談しやすい制度、相談窓口等を充実させる等、何か別の方法もあるのではないかと思ったりもします。
過重労働から医師の健康を守り、より良いワークライフバランスの実現が、今回の働き改革の目指すところですが、労働時間の上限にとどまらず、効率的な病院運営、パワハラ、カスハラ対策、病児保育の整備等、ストレスなく働きやすい職場環境の整備が今後の課題となると感じています。
(令和6年9月号)