阿部 裕樹
新型コロナウイルスが5類へ変更されたことを受け、医療安全部では昨年から警察医研修会を再開しました。警察医の業務は多岐にわたり、留置人の健康管理、異状死体の検案、産業医としての警察職員の健康管理などが含まれます。しかし、警察医の後継者不足は依然として深刻な問題であり、このままでは業務が立ちゆかなくなる懸念があります。医師会として対策を講じる必要があると考え、警察医の現状を探るために、現在警察医業務に協力している医師にアンケートを実施しました。
①アンケート結果の概要
今回のアンケートには17名の医師が回答しました。内訳は開業医が12名、病院勤務医が5名です。病院勤務医の多くは新潟大学医学部法医学教室やその関連の医師であるため、医師会としての取り組みを検討する目的から、今回は主に開業医の回答をもとに考察します(表には病院勤務医のデータも参考として記載しています)。
◦勤続年数(表1):11年以上が9名と、長期間の勤務が目立ちました。
◦警察医となった経緯(表2):多くは前任者や医師会、警察署からの依頼によって就任しており、特定の個人を対象として依頼された場合が主流です。
◦死体検案の負担(表3):年間の検案出務回数は、10回以内が4名、11回から50回が5名であり、地域や医師によって大きな差があります。
②課題と今後の方針
今後の警察医の選定方法については、現状の方法を支持する意見もある一方で、班内での当番制や複数の医師での分担を支持する意見が多数を占めました(表4)。特に、検案に複数回出務している医師の回答からは、複数人で業務に当たる体制を構築することが重要な課題であることが明らかになりました。そのためには警察医の人数を増やすことが急務ですが、現任者が特定の後任者に依頼する方法では限界があり、後継者不足が慢性化しています。この状況を打開するためには、当番制を含めた新たな方法を検討する必要があります。また、警察医となる診療科については、研修の機会があれば診療科を問わずに可能であるとの回答が大多数を占めました。このことから、警察医研修会をはじめ、検案に必要な知識や手技を広く会員の皆様に学んでいただく機会を作ってゆく必要があると考えています。
③持続可能な警察医業務の実現
「持続可能」という言葉がよく使われる昨今、警察医の業務を持続可能にするために、医師会として今回のアンケート結果を基に取り組んでゆく所存です。警察医一人あたりの負担を減らすことが必要であり、そのためには広く会員の皆様にご協力いただく必要があると考えています。今後の警察医研修会では、これから警察医業務に携わる医師向けの検案に関する基礎的な内容から、事例を基にしたケースディスカッションまで、幅広い内容を盛り込めるように計画したいと考えています。ぜひ積極的なご参加をお願いいたします。併せて、検案で疑問が生じた際のサポート体制の構築なども検討してゆきます。会員の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。
表1 勤続年数
表2 警察医となった経緯
表3 死体検案の負担(年間の検案出務件数)
表4 今後の警察医の選定方法(複数回答)
表5 死体検案は、どの診療科でも可能か(複数回答)
(令和6年10月号)