廣川 徹
令和7年を迎え今年もまた4月にきらきらしたこどもたちが小学校に入学します。私が学生であった1980年代において、小児科で学んだ神経発達症は当時言われていた微細脳機能障害(Minimal Brain Dysfunction:MBD)や自閉症ぐらいしか記憶に残っていません。現在、注意欠如多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorders:ADHD)、学習障害(Learning Disability:LD)、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)をはじめとした神経発達症の児は約8.8%に達しています。2歳児の食物アレルギー患者の約10%に匹敵し日常診療でも頻繁に目にするようになっています。1か月健診、3か月健診、6-7か月健診、9-10か月健診、1歳健診、1歳6か月健診、3歳児健診などが自費・公費で実施されています。それぞれに健診の役割・目的に違いがあります。成長・発達の評価はもちろんのこと年齢が上がるにつれて精神発達状況、言語障害の有無、社会性の発達などが評価されます。
神経発達症について保育士の方にお聞きすると、3歳ぐらいまではまだはっきりしないことが多いが4歳になるとほぼわかると言っていました。家庭では気づきにくい社会性が入園して友人と関わることではっきりするようになります。3歳児健診で「落ち着きがない」、「指示が入りにくい」、「会話になりにくい」などの行動特性が見られるハイリスク児の集団を対象としたコホート研究では、神経発達症に該当する小児が35.3%、軽度の知的発達症に該当する小児が29.4%、定型発達と思われる小児が35.3%であることが判っています1)。
新潟市は、乳幼児期の各種健診結果、家庭や保育園・幼稚園での生活状況、保護者の意向を踏まえながら学びの場の選択(通常学級・発達通級指導教室・特別支援学級・特別支援学校)や入学に向けた準備のための就学相談を入学前年の5月と7月に実施しています。その後、就学時健診を10月から11月にかけて実施します。就学時健診の目的は就学予定児がこれから始まる学校生活を支障なく円滑に営める健康状態であるか否かを判断する重要な役割を担っています。就学支援委員会が8-9月、11月、12月と実施され学びの場の選択のための就学判断が行われます。児の事前の就学相談がなく就学時健診で初めて神経発達症が疑われた場合、専門医を受診するまでには現在は半年近く待たなければならないこともあり、対応を講じるための十分な時間がなくその児に適した教育を4月から開始できない恐れがあります。その後の不登校、反社会的行為などにつながらないようにしなければなりません。
神経発達症の気づきは3歳児健診では早すぎ、就学時健診では遅いことがわかり、その間を埋める必要性から1996年鳥取県大山町で5歳児健診が始まりました。その後2007年に厚生労働省の研究班において有用性と感度・特異度・費用対効果などが報告され全国の自治体で取り組まれるようになりました。2023年12月に子ども家庭庁において1か月児及び5歳児健康診査支援事業が策定され、いずれも公的予算の対象になりました。その後、国は5歳児健診マニュアルを作成、2024年11月には5歳児健診を全国へ普及させるために5歳児健診ポータルサイト(https://gosaiji-kenshin.com/)を立ち上げました。
新潟市においては佐藤勇新潟市医師会前理事からの提案で行政に働きかけ、乳幼児健診あり方検討会が2022年から開催されています。私も昨年度から参加させていただき、現在は5歳児健診について議論しています。5歳児健診は実施方向で動いていますが、実施方式については集団健診、巡回方式、園医方式、個別健診があり5歳児健診を実施している他の政令指定都市も参考にしました。各都市の面積、対象人数によってそれぞれ異なり、事前アンケート方式を併用した集団健診方式や個別健診などもあり国のマニュアル通りに実施している政令指定都市はありませんでした。新潟市は、市の特徴・事情を考えると5歳児すべてを対象とした健診を実施することは困難で現実的ではないという見解を示し、事前に自己チェックするアンケート方式の併用を検討しています。就学予定児は約5800人でおおむね8%(400人)を対象者と見込んでいます。今後の課題としては健診方式決定は言うまでもなく、人員の確保(医師・心理職)、健診の日程と場所の確保、健診後のフォロー体制整備など様々な問題があります。今後も新潟市小児科医会とも連携を密にして医師会、大学、病院、行政機関などと一緒に新潟市の最適解となる5歳児健診のあり方を検討していきます。先生方におかれましては日常診療でご多忙と存じますが、きらきらした小学校1年生が明るく楽しく元気よく小学校に通えるよう、是非とも5歳児健診にご協力ご参加くださるようお願いいたします。
文献
1)小枝達也、汐田まどか、赤星新次郎、 他. 学習障害児の実態に関する研究(第2報):3歳児健診における学習障害リスク児はどんな学童になったか. 脳と発達 1995;105:1317-1323