岡崎 史子
島根大学の所在地を米子と勘違いした。米子便をとり、米子のホテルをとり、準備万端だと思っていた2か月前、他大学の先生と飲んだ時、それに気づいた。
「島根大学ね。僕は出雲大社に寄りましたよ」。
出雲?慌てて調べると、島根大学は出雲だった。気付いてよかった。米子から出雲までは特急で1時間。飛行機の変更はできないので、このままとする。
当日、米子空港から米子駅に着き、ホテルに入る前に翌朝の列車の確認をしようと駅の窓口へ寄った。「明日朝の出雲へ行く特急なのですが」と駅員に聞くと「ああ、それね、運休ですよ。この雨ですから。普通列車は動く予定ですが、それも明日次第だね」。
ウンキュウ。この程度の雨で?落ち着け。まだ時間はある。今晩なら出雲には行けそうだ。宿はどうする?まずはチェックインだ。とにかく取ったホテルには行こう。
部屋に入ってネットで調べると、どうやら最大級の暴風雨が来ているらしかった。明日の朝がピークらしい。もし普通列車が動かないと、タクシー?仕方ない。宿は捨てよう。秋の3連休だが、あちこちのサイトをのぞくとやや高いが出雲市駅前のホテルが1室確保できた。自腹だが仕方ない。米子のホテルには大浴場がついていた。残念だが入っている時間はない。私はホテルをチェックインから1時間でチェックアウトし、景気づけにお寿司を食べて出雲市へ向かった。
翌朝は確かに暴風雨だった。駅から島根大学まで2キロだが、タクシーは1台もいない。バスは来ることにはなっているが、この雨で果たして?遅刻は絶対にできない。私は嵐を背負って2キロを歩いた。
到着するとまず、「先生、お帰りは大丈夫ですか?」と聞かれた。「はい、大丈夫です。サンライズ出雲をとってあります!」私は満面の笑みで答えた。憧れの寝台特急。折角ここまで来るのだから、帰りは優雅に帰ろうと計画していた。しかし、先方の顔が曇った。「先生、たぶん、運休ですよ。調べた方がいいです」なんと!チェックすると、0時半の公式Xでサンライズ出雲の運休が発表されていた。夜には雨は止むのに。私は途方に暮れた。そしてチケットを取った時のことを思い浮かべていた。
それは1か月前の午前9時。新潟駅のみどりの窓口だった。寝台特急はチケット入手が非常に困難だ。PCの前でEnterキーを連打するか、みどりの窓口がよいとのこと。ならば、みどりの窓口。私は発売1時間前に列に並び、窓口のお兄さんに告げた。「10時発売のサンライズ出雲のA寝台を取りたいのです」「時間にならないとどうしようもないので、お待ちください」
私はそのまま、次の人に順番を譲り続けた。9時50分になったとき、お兄さんが「そろそろ準備がありますからどうぞ」と声をかけてくれた。お兄さんもサンライズ出雲のチケットをとるのは初めてらしい。私が待っている間、奥の方で年長の駅員さんと何やら話をして、熱心にメモを取っているのを私は見ていた。9時57分にはすべての入力が終わった。あとは10時を待つだけだ。息をのんでその瞬間を待つ。そして。10時ジャストにお兄さんがEnterキーを連打する。「やった!」「と、とれたんですね!」「はい!」私はその場で文字通り小躍りした。こんなに興奮してわくわく喜んだのは何年ぶりだろうか?ここから1カ月、サンライズ出雲を楽しみに頑張ろう、と思ったのだった。
ところが。無情にも、雨。土砂崩れでもなし、運休しなくてもいいのに。とはいえ、帰れなくなっても困る。幸い出雲空港からの便を押さえることができた。用務はつつがなく終わり、帰路についた。空港のしじみ塩ラーメンが大変美味だったのが救いだった。いつかリベンジできるといいのだが。思い通りにならない1日だった。