丹羽 恵子
新潟市医師会理事として福祉介護部を担当している丹羽恵子と申します。
昨今、介護と医療を必要とする高齢者の増加が現実となり、医師を含めて生産年齢人口が減少している中で地域医療を維持するためにも、なるべく自立した生活が送れるように、地域住民一人ひとりの健康意識を高めることが大事です。
私は、患者さんの体質に合う漢方薬で食欲不振など様々な不調が改善した経験から漢方治療に興味を持ち、漢方専門医を取得しました。漢方を用いた診療は、患者さんの本質を判断して処方するため診断と治療に時間がかかりますが、その分患者さんが満足してくれることが何よりの励みになります。漢方薬を西洋医学的な診断に基づいて処方することもありますが、漢方の面白いところは診断に至らない「未病」に有効なことです。
長時間かつ不規則な仕事やスマートフォンの使用、偏った食生活や運動不足など、現代の生活習慣や社会環境は、心身のバランスを崩しやすく未病を引き起こしやすくしています。
バランスを考えた食生活や適度な運動、睡眠時間の確保など食生活や生活習慣の見直しは、健康的な生活には不可欠ですが、それでも何となく体調が悪い時には漢方がお勧めです。
なかでも「冷え」は、倦怠感、頭痛や不眠、腹痛や下痢・便秘などの原因となり、未病の筆頭とも言えます。そもそも「冷え症」という病名は西洋医学の教科書にはありません。その病態が明確ではないため診断基準もなく、人それぞれの感じ方にまかせた形となっています。「冷え」は女性に多くみみられますが、高齢になると男性にも「冷え」を感じる方が多くなります。末梢血管の収縮による血行不良が主な要因となり、ストレスや不規則な生活などで自律神経のバランスが乱れることで「冷え」が生じます。ただし「冷え」といっても、閉塞性動脈硬化症や、膠原病に伴う血管障害など、その原因が本当の病気のこともあるので、「冷え」の診療をする際は、身体所見や動脈硬化の原因となる生活習慣病のチェックは必須です。
漢方の診療には体質や症状を判断するために「証」と「気血水」を理解する必要があります。「虚証・実証」の判断はとても重要な指標です。また体内を巡る「気血水」はそれぞれがバランスを保つことで健康を維持しており、これらが不足したり偏ったりすると体の不調や病気が起こると考えられ、漢方を選択するためには重要な指標となります。
「冷え」の頻用漢方薬を以下にご紹介します。