阿部 行宏
新潟県は医師不足である。これは新潟で医療にかかわっている方には当然の話であろう。これは医師の偏在にかかわる問題と考える。新潟県は全国の大学にアプローチして新潟県枠を作っていただき、今後医師は少し増加する方向にあると考えるが、それを指導する医師の不足は否めない。そうなると、数年は新潟にいるかもしれないが定着するのかという疑問もある。新潟県も広く、各地には様々な要因があり、全域でこの医師不足を改善するというの一は筋縄ではいかないであろう。
そんな中、厚労省はこの医師偏在も含めて地域医療の再編を考え「新たな地域医療構想」を打ち出してきた。従来の「地域医療構想」から「新たな地域医療構想」へと進化し、2040年頃の超高齢社会を見据えた、持続可能な医療システムの構築を目指すとされている。従来の構想が「2025年問題」に対応し、主に病床機能の効率的な再編に焦点を当てていたのに対し、「新たな地域医療構想」は、人口減少社会における医療のあり方を再定義し、その核となるのは、「病院完結型」から「地域完結型」への移行と、医療・介護・生活支援を一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の深化である。これにより高齢者が住み慣れた地域で、可能な限り自立した生活を送れるよう、地域全体で支える仕組みを構築することを目的としている。
現在、日本全体では医学部定員の増加により医師の総数は増加し続けており、一部では将来的に医師が人口に対して過剰になるという予測も存在するが、実際には医師偏在の中の地域偏在と診療科偏在が深刻化している。この医師偏在が、「新たな地域医療構想」の実現を阻む最大の課題となっており、医師が不足している地域では、在宅医療や多職種連携といった、構想の前提となる医療機能が十分に発揮できなくなる。
「新たな地域医療構想」は、この偏在問題に対し、以下の点で対応している。
1.病院機能の分散と地域医療の強化:高度急性期・急性期の医療機能を担う大規模病院だけでなく、回復期や慢性期の医療、そしてかかりつけ医を中心とした一次医療の重要性を高めることで、都市部の大規模病院に集中しがちな医療資源を地域へと分散可能にする。
2.「地域包括ケア」を通じた役割分担:医師だけでなく、看護師、薬剤師、歯科医師、リハビリテーション専門職、ケアマネージャーなどが連携して医療を提供する体制を構築し、これにより、医師の負担を軽減し、限られた医療資源を最も必要とされる領域(特に地域医療)に集中させることを目指す。
3.働き方改革と連携:医師の働き方改革(時間外労働の上限規制)が施行される中、地域医療の持続可能性を確保するには、医師の業務負担の分散が不可欠である。「新たな地域医療構想」は、地域連携と医療DX(デジタル変革)を通じて、医師が地域で働きやすい環境を整備することを目指している。
そして、今年開始された「かかりつけ医機能報告制度」は、医師偏在是正のために実行する具体的なツールに位置するものと考えられる。この報告制度は、医療機関がかかりつけ医としての機能を報告し、それを公表することで、地域におけるかかりつけ医機能の供給状況を「見える化」させる。特に新潟のような医師不足の地域において、この制度は重要な役割を果たすと考えられる。地域でどのような機能(例:時間外対応、在宅医療、専門病院との連携など)が不足しているのかを正確に把握できるため、地方自治体や医療関係者は、データに基づいた偏在対策や、新たな医師の確保に向けた戦略を立てることが可能になる。
「新たな地域医療構想」は、地域包括ケアの深化とかかりつけ医機能の強化を通じて、医療資源が適切に地域に配置され、医師が持続的に働ける環境を構築することで、偏在の是正を目指すものである。「かかりつけ医機能報告制度」は、その取り組みをデータで支え、地域医療の透明性と効率性を高めることで、構想の実現に不可欠な役割を果たしているといえる。今年度中に報告義務が生じ、さらに地域における課題について協議の場を設けることになっている。地域をどのように設定するのか考える必要があり、課題に関しては地域により異なってくる。協議の主題は行政もしくは医師会が担っていくことになると思うが、新潟市においては、医師会が主体に動くことになりそうである。また、課題によってさまざまな協議の場を設定することを国は考えており、多くの先生方のご協力が必要である。しかし、まだ報告がなされていない中では、地域の課題を抽出できていないのが現実である。今後どのような形で協議するかは不明な点が多いが、先生方にはぜひご参加いただければ幸いである。
今後大きな医療制度改革が行われることはほぼ確実と考え、それに沿った対応を我々医師は考えていかないといけない時代に入ろうとしている。面倒な話ではあるがそれが現実であろう。
(令和7年8月号)