阿部 裕樹
近年、「AI(人工知能)」という言葉を耳にしない日はないほど、私たちの生活や仕事の中にAIが入り込んできました。医療の世界も例外ではなく、画像診断の支援や退院時総括などの文書作成、情報検索など、すでに多くの場面でAIが活用され始めています。私自身の業務においても、調べ物や簡単な文案作成、文章の推敲などでAIを使う機会が増え、今では「なくてはならない存在」になりつつあります。
昨年参加したある学会では、従来の利益相反の開示に加えて、AI使用の有無についても申告が求められていました。学会発表の場面でAIを本格的に活用している例はまだ多くありませんでしたが、スライドに使用するイラストやグラフを生成AIで作成している発表も見受けられました。これまでは、インターネット上のフリー素材の中から利用できそうなものを探していましたが、自分の意図により近いものを生成できる点は、大変便利だと感じました。
AIの最大の利点は、そのスピードと効率の良さにあります。例えば、ガイドラインや過去の知見を調べる際、従来は文献を一つ一つ確認する必要がありましたが、AIを使えば短時間で要点を把握することができます。忙しい医療現場において、限られた時間を有効に使える点は、大きな魅力と言えるでしょう。
一方で、注意すべき点もあります。AIは非常にもっともらしい文章を作ることがありますが、時に事実と異なる内容を含んでしまうことがあります。これを「ハルシネーション」と呼びます。AIは人のように「理解して考えている」わけではなく、あくまで過去のデータをもとに文章を組み立てているに過ぎません。そのため、医療情報として用いる場合には、必ず人の目で確認し、最終的な判断は医師が行うことが不可欠です。
その際、AIに対して根拠となった文献や出典を示すように指示することで、原典に直接あたることも容易になります。「AIにどのように指示を出すか」という点は、AIを上手に利用するための重要なスキルといえそうです。また、サービスによっては、利用者があらかじめ与えた情報のみに基づいて回答させることができるものもあり、用途に応じた使い分けが重要になります。
医療におけるAIの役割は、「医師に代わって診断する存在」ではなく、「医師の判断を支える道具」であるべきだと考えます。便利な道具ほど、使い方を誤ると危険も伴います。AIの出力をうのみにせず、あくまで参考意見の一つとして冷静に活用する姿勢が求められます。
高齢化が進み、医療を取り巻く環境が一層厳しさを増す中で、AIは私たちの負担を軽減し、より良い医療を提供するための心強い助けとなり得ます。大切なのは、AIを恐れることでも、過信することでもなく、その特性と限界を理解した上で賢く使いこなすことではないでしょうか。これからも人の判断と責任を軸に、AIと上手に付き合っていく姿勢が求められていると感じています。
(令和8年2月号)