藤澤 正宏
最近、『直美』という言葉をよく聞くと思いますが、『直在』という言葉があることをご存じですか?
『直美』とは、医学部卒業後の2年間の初期臨床研修を終えて、外科や皮膚科などの保険診療の経験を積まずに、直ぐに「美容外科」や「美容皮膚科」へ就職する若手医師を指す業界用語です。
一方『直在』とは、『直美』同様に初期臨床研修を終えた直後に、病院での専門研修(後期研修)を経ずに直接「在宅医療(訪問診療)」の分野へ進む若手医師を指す造語のことをいいます。
『直美』を選ぶ背景としては、病院勤務医のような当直が無いなど労働環境の魅力が高く、若くして高収入が得られるなどの経済的なメリットがあるため、タイパやコスパを重視している若者に選ばれやすいという理由があります。
実際、年間約200~300人前後、研修医全体の2~3%がこの道に進んでいるという報告もあり、ここ最近急増しているという事実があります。
日本の医師免許制度では、医師免許を取得しさえすれば専門医などの資格がなくとも自由診療であればあらゆる医療行為が可能となります。つまり、初期研修さえ終了していれば、形成外科専門医などの資格が無くても美容外科手術を行えてしまうということになります。
そのため、一般診療の基礎が不足している経験の浅い美容外科医師が増えてしまい、医療の質が低下するという問題や、若手の医師の多くが美容外科医を目指すということが、医師の偏在を加速させ、社会全体の医療バランスを崩す原因の一つとなっているということも指摘されております。
一方で、『直在』を選ぶ背景は、『直美』とは少し違います。
日本の超高齢化社会に伴い、「住み慣れた場所で最期まで住みたい」と望む高齢者が増えていることに合わせて、国も地域包括ケアシステムの構築を推進しているため、その結果として在宅医療のニーズが高まり、その要となる在宅医の需要も増えているという背景があります。
また、若い世代の医師が、ひとつの専門性を追求することだけにこだわらず、患者さまの生活や人生全体に寄り添う、いわゆる「全人的医療」への関心が高まっているということも影響していると言えます。
さらに、在宅医療は、病院勤務と比べて自分の裁量で働き方をコントロールしやすいため、『直美』同様にワークライフバランスを実現しやすく、プライベートを重視する現代の医師の価値観にあった働き方ができるという魅力も後押ししています。
他にも、高齢者の多様な医療・生活課題に、多職種と連携しながら向き合う中で総合診療力を高められることや、若くして現場の主力として期待されやすいというメリットがあり、状況によっては早期から安定した収入を得やすいことも、『直在』が増えている要因だと思います。
しかし、在宅医療は特定の臓器や疾患だけでなく、急性期から慢性期・終末期まで患者一人ひとりの人生に寄り添い、継続的なケアを提供しなければならないため、実際には十分な臨床経験が必要であり、『直在』には技術的・教育的なリスクが指摘されていることも事実です。
『直美』と『直在』には、自由診療が中心となるのか?、保険診療が中心となるのか?の大きな違いがあります。
美容クリニックの多くは自由診療による収益で成り立つ民間企業的な側面が強いため、そのような環境下で『直美』としてキャリアをスタートさせることが、本来の医師の「患者の健康を最優先する」という医療倫理ではなく、「売り上げを上げること」に評価を置いてしまうという危険性があるのではないかと危惧しております。
同様に、在宅医療も「売り上げを上げること」を重視するような民間企業が多く参入することは、昨今問題となっているホスピス・サ高住やそれに付属する訪問看護ステーションが乱立する結果となり、医療費の増大による社会保障費の確保が難しくなってしまうため、今後の国の適正な対応に期待したいところであります。
いずれにせよ、医師の偏在や医療バランスを崩さないためには、持続可能で倫理的な医療提供体制を構築していく必要があり、国のしっかりとした制度による規制や教育強化が必須であると私は思います。