黒埼病院 北沢 智二
療養型病院に移り介護老人保健施設の助勤も行いながら早や11年、この間医療情勢も変化し高齢者・認知症での「人生の最終段階(回復不能の終末期)における医療」について考えさせられる機会が多くなりました。「看取り」の問題はメディアにも頻繁に取り上げられ、「人生の最終段階」の延命治療中止についても多くのガイドラインやコメントを読み勉強しているところです。
・「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する「立場表明」(日本老年医学会2001.6.)
・終末期医療ガイドライン(厚労省2007.5.)
・救急医療における終末期医療に関する提言[呼吸器取り外し指針](日本救急医学会2007. 11.)
・高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(日本老年医学会2012. 11.)
・救急・集中治療における終末期医療に関する提言(日本救急医学会、集中治療医学会、循環器学会2014.6.)
・人工透析の不開始・中止の判断についての提言(日本透析医学会2014.7.)
・人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚労省2015.3.)
・各施設でのターミナルケア加算の導入(診療・介護報酬改定2006.4. -2015.4.)、等。
・看取りに関する介護関連書籍も多数。
これらの議論の中で、延命治療には救命救急医療における心肺蘇生、人工呼吸器、昇圧剤使用等に限らず、慢性期における人工的水分栄養補給(AHN=artificial hydration and nutrition=補液、経管栄養)も含まれること、そして「人生の最終段階」での延命治療の開始・不開始・減量・中止の選択肢を示し、緩和に努めながら死に至るまで看取りのケアについても患者・家族と話し合うこととなっています。患者本人の意思確認ができない場合家族との相談になります。食事量が減ってきた時、過少医療に否定的で点滴位はやったほうがよいと思う医療従事者も多いはずですが、意識に温度差はありますので相談が重要です。高齢者医療では年齢差別をしない(anti-agism)としながら、一方で「老衰(senility=高齢による多臓器不全)」という病態も考えられ、症状回復可能にしても個人差もあり、短期か長期か判断に悩むことも多々あります。誤解の無いよう何度でも説明するしかありませんし、患者・家族の気持ちが変化すれば対応も変更せざるをえません。前医・一般病院と情報の共有をしつつ、患者・家族と医師、看護師、介護士、リハビリ・スタッフ、薬剤師、管理栄養士、医療相談員などから構成される委員会での話し合いが必要でしょう。患者本人の生活歴や信条も重要でしょうし、できるだけの希望にそいたい思いもあります。やる事とやらない事を個別にオーダーメイドで決定していかねばならない、正解はひとつだけではない繊細さを痛感している今日この頃です。
(平成28年2月号)