桑名病院 一般内科
目黒 太一
新潟から車で約2時間半、福島県会津地方にある「左下り観音」を訪れた。この場所は、日本遺産にも認定された「会津の三十三観音めぐり」の第21番札所であり、歴史と自然が織りなす神秘的な空間だ。春先のまだ冷たい空気の中、雪が残る山道を進むと、やがてその荘厳な姿が現れる。
まず目を引くのは、木造建築の堂々たる佇まいだ。岩肌に寄り添うように建てられた観音堂は、高さ約14.5メートルにも及び、その構造は京都の清水寺を彷彿とさせる。長い年月を経て色褪せた木材が独特の風合いを醸し出し、太陽の光がその隙間から差し込む様子は神秘的である。自然と調和したその姿は、訪れる者に深い感動を与える。
観音堂の奥には岩窟が広がっている。この洞窟内には「くびなし観音」とも呼ばれる小さな石仏が安置されている。この岩窟にごく小さい柱が隠されておりその柱を見つけた人には幸運が訪れるという。洞窟内はひんやりとしており、静寂が心を落ち着かせる。赤い布で飾られた仏像群が岩肌に映える様子は、厳かな雰囲気を醸し出している。訪れる者は自然と手を合わせ、この地の神秘に思いを馳せる。
観音堂から望む景色もまた格別だ。眼下には会津盆地が広がり、その奥には雪を冠した磐梯山が連なっている。澄み切った青空と山々のコントラストは、自然の雄大さを感じさせる。この絶景は、まさに「心洗われる」という表現がぴったりだ。都会の喧騒から離れ、この場所で感じる静けさと広大な景色は、日常生活で失われがちな心の余裕を取り戻させてくれる。
「左下り観音」は平安時代初期、徳一大師によって建立されたと伝えられている。その昔、この場所は修験者たちの修行場でもあったという。険しい山道や洞窟に足を踏み入れることで、時代を超えて受け継がれてきた信仰の息吹を肌で感じることができる。この地に足を運ぶこと自体が巡礼となり、自分自身と向き合う時間となる。
帰りの山道を下りながら感じたことは、「左下り観音」が自然と歴史、そして信仰が融合した特別な場所であるということだ。その静謐な雰囲気と壮大な景色は、日常から離れた時間を提供してくれる。雪解け水が流れる春先に訪れることで、生命力溢れる自然とともにこの地の魅力を存分に味わうことができた。身近な大自然と古来の建造物に心身ともに癒される貴重な経験だった。