新潟白根総合病院 院長
大矢 実
本邦の少子高齢化に伴う社会のあり様は、かつて想像していた以上の速度で変化し対応が極めて難しい問題も少なくない。我々の関わる医療・福祉の領域においても社会あるいは地域が必要としている需要と供給側の体制や能力において少なからず解離を生じている。
当院は生協組織を母体とした施設であり、組合員の出資や思いに支えられており、その要望に応え、地域の医療・福祉を守ることが責務である。病院としてより多くの医師を雇用し、充実した診療を提供したいと考えているが、現状は理想と大きな隔たりがあり、医師の雇用特に常勤医の獲得は最も難しい問題のひとつである。
以前は新潟大学第二内科学教室から常勤呼吸器内科医1名の派遣をうけ、呼吸器疾患の診療を担って頂いていた。2018年6月、呼吸器内科医集約のために呼吸器・感染症内科からの派遣が終了し、代わりに週3−4日4.2枠分の外来助勤を頂く形となった。
そのような診療体制となって間もなくの2020年以降、世界中を震撼させた新型コロナウイルス感染症のパンデミックが生じた。2016年に竣工した当院新棟には敢えて陰圧感染隔離室は設けず、新興感染症等の入院診療には積極的に関与しない方針であったが、状況はそれを許さなかった。当院で新型コロナウイルス感染症の入院診療を本格的に開始したのは2021年夏の第5波からであり、既に医療従事者や高齢者を対象としたワクチン接種が開始されており、治療薬としてもレムデシビルや抗体製剤が利用でき、極端な物品の不足に悩まされることもなかった。しかし、その後の感染症拡大は凄まじく、入院患者受け入れのために病棟運用の変更や院内感染対策、発熱外来の運営など試行錯誤しながらの対応を余儀なくされた。まさに嵐の中を走り抜けるような経験であったが、医師として社会に貢献できていると感じることができる貴重な機会でもあった。
2024年5月の感染症法上の分類が変更され、統計データ集計が終わってみると本県の新型コロナウイルス感染症者の死亡率は何と全国最低であった。この結果は、乏しい医療資源を有効に活用するために卓越した指導力を発揮した県福祉保健部/医療調整本部の存在や関係した多くの医療・福祉従事者の努力によるが、これと並んで重要だったのが先に述べた呼吸器内科医の集約であったと考える。新潟医療圏では感染症拡大下において、済生会新潟病院、新潟医療センター、西新潟中央病院、木戸病院の呼吸器内科医師によるコロナ輪番が編成され、夜間・休日の新型コロナウイルス感染者や感染が疑わしい発熱者を積極的に受け入れて頂いた。参加された多くの呼吸器内科医に過重な負担を強いたものと思われるが、これにより医療資源の乏しい新潟においてもその他の救急医療・急性期医療が極端な停滞なく何とか維持できたことに疑いの余地はなく、新型コロナウイルス感染症診療における輝かしい成果と共に医療崩壊の回避にも大きく寄与した。
この度の感染症は当然予想されたものではなかったが、今後必要と考えられる医療の姿を予測し、医療界全体で準備を怠らないことの重要性を学ばせて頂いた。
最後に素晴らしい戦略と労を惜しまぬ実践で医療を支えて頂いた呼吸器・感染症内科学教室および呼吸器内科医の皆様に改めて敬意を表します。
(令和8年8月号)