日本歯科大学新潟生命歯学部 外科学講座
大竹 雅広
今年度から警察嘱託医を引き受けることになりました。あらためて学生時代の法医学の教科書等を読み返したりしていますが、実際の検死では若い方の自殺が多いことを実感しました。今年1月の新潟日報によれば新潟県内の自殺率は全国ワースト2だそうです。
あらためて言うまでもなく自殺は心の問題です。そして、心の不具合を治療するのは「精神科(精神神経科)」だと、学生時代から思っていました。ところがいつの間にか「心療内科」という診療科目が広まってきました。「精神科」を受診するのは一般の方にはハードルが高いので「心療内科」ができたのだという話に妙に納得していましたが、実際には、精神科では「気分や思考、行動に関わる精神的な症状を専門的に扱う」のに対して、心療内科では「心理的なストレスや不安が原因で身体に具体的な症状が現れるもの(心身症)」を対象とするのだそうです。
一方で、「心療内科」があるのならば「心療外科」があっても良いのではないかと、外科医である私は単純に思ってしまいます。そこで「心療外科」で検索をかけると1995年の第20回日本心身医学会近畿地方会で「『心療外科』の提唱」という演題発表がありました。外科診療においても心身医学的対応が要求される場面が多いことを述べられています。ただ、外科診療においても心のケアが必要になることがあり、それらをさして「心療外科」と述べられており、心療内科とは少し意味合いが違うようにも思われます。
ところで、心理的な問題を扱う学問として「心理学」があります。学生時代には心理学に興味があり、教養での講義ではまじめに聴講していたつもりですが、卒業後は疎遠となっていました。ところが、数年前に学生時代の同級生に頼まれて心理学の資格取得に必須科目の講義を引き受けることとなりました。講義内容は、解剖学、生理学、産科学、小児科学、内科学、整形外科学、腫瘍学、公衆衛生学等多岐にわたっており、日頃の不勉強がたたり、1回の講義準備にまる1日を費やすことがほとんどでした。
講義を引き受けて3年くらいたった頃に「心理学を何も知らない自分が心理学を学ぼうとする人の講義を担当してもよいのだろうか」と疑問を感じ、その同級生に勧められて国家試験である「公認心理師」を受験することにしました。合格すれば、自分の思い描いていた「心療外科医」の道が開けるのではないかと考えていましたが、現在の心理学は私が習った頃とはまるで違っていました。心理学専門家という方でも、さらに「医療・福祉」「教育」「産業」「司法」などと専門分野が分かれており、それぞれの分野で対応方法が異なっているように思われました。何とか試験には合格できましたが、心理学の有資格者というにはとても気恥ずかしく、現在も可能な限り心理学の学習の機会を設けるようにしています。そして、この学習を通して「心理的なストレスや不安が原因で生じた身体の不調を外科的処置も含めて対応できる『心療外科医』でありたい」と考えるようになりました。
ただ、心理学を専門としている方々を見るといずれも穏やかな人格の持ち主です。私も「心理学を学んでいるおかげで、思い通りに行かないことではすぐに腹を立てなくなり、短気な自分の性格が良くなっているのではないか」とも思うようになりました。先日、何かの話のついでに妻にその話をしたところ、「そのとおりかもね。でも、あなたが心理学の専門家というにはまだまだ遠い道のりだね」と笑顔で言われてしまいました。妻の観察眼は非常に正確です。
(令和8年9月号)