鷲山 和雄
新潟県スポーツ医科学センター(以下センター)は平成14年に開設され、「ビッグスワン」スタジアムの施設内にあります。(財)新潟県体育協会が指定管理者になっており、実質的には県営といえます。多くの都道府県や政令都市でほぼ同時期に類似の施設が設立されたことからも明らかのように、国策に沿った施設です。現在、アスリート育成から生活習慣病に至るまで、運動に関する広範囲の需要に対応しています。
私が今回紹介するのは、外来者が予約せず気軽に利用できる「フィットネスホール」です。小学校の体育館程度の広さがあります。フリーゾーン、トレッドミル・エルゴメーターゾーン、(階上の)ランニングゾーン、筋トレゾーン(添付写真)に分かれています。筋トレゾーンでは、安全認証を受けた最高レベルのドイツ製の様々なタイプのマシンが20台以上並んでいます。フリーウェイトもあり、ほとんど全身の筋力トレーニングをカバーできます。トップアスリートだけでなく、高齢者のリハビリテーションをも考慮した機器なので、負荷レベルを細かく設定できます。ホールには、常時一人以上の係員が待機し、使用説明やトレーニング方法に関する相談にも応じています。
現地への交通が不便で、利用者が少ないことも手伝ってか、首都圏にある類似フィットネス施設の半額以下の利用料金です。民間施設との比較は論外です。トレーニング機器を待たずにどれだけ利用しても、汗をかいた後に温水シャワーを浴びても、一日の利用料金は200円に過ぎません。日常的に行うトレーニングは、こうでなくてはいけません。人口密度が低く、採光にも優れ、開放感があります。数千万円の設備を自由に使えると思うと、貧乏人だからでしょうか、とてもリッチな気分になれます。現在の私には肩関節周囲炎のリハビリも利用目的のひとつになっています。毎日のように利用する方には、一ヶ月間1,600円での使い放題利用券もあります。利用は9時から17時までですが、4月から11月までの期間は21時までとなっています。休館日は月曜日と年末年始。無料駐車場は歩いて数分のところにあります。ビッグスワンでJリーグの試合などがある時には駐車場入り口でのチェックがあるので、センター窓口で無料駐車券をもらってから駐車場に入構します。
センターには内科と整形外科の診療所があり、常時、様々な講習会・運動教室・体力測定などに関わっています。センターは、新潟県民の健康増進を図る拠点として、メタボリックシンドローム・生活習慣病・或はその前段階、更には一層の健康を願う方に、適正な食事、運動、休養の指導と実践を通して生活習慣の改善を図るというモデル事業を行い、それを介して指導者研修、調査研究、情報提供を行っています。また、新潟県のスポーツ振興を図る拠点として、主に競技スポーツに挑戦している若いアスリートの医学検査、身体機能測定を実施して、競技力向上を支援しています。更に、指導者研修、スポーツ医科学研究、情報提供も行っています。発足以来センター長を務める荒川正昭先生は、健康づくりでもスポーツ医科学でも「医療が要」であると認識し、センターを運営しておられます。
私が部長を務める新潟大学医学部ラグビー部の学生は、OBからの支援を受けて、平成16年から毎年、センターで、ローパワー(最大酸素摂取量・全身持久力)、ミドルパワー(40秒パワー・筋持久力)、ハイパワー(最大無酸素パワー・瞬発力)などの各種の体力測定と、スタッフからの指導を受けています。受験戦争を経て、基礎体力の乏しい状態で入学してきた学生は、毎年の自らの測定データを励みに、日々のトレーニングに取り組んでおり、それが脊髄損傷や脳挫傷などラグビー特有の重大事故の防止にも役立っているのではないかと私は確信しています。
「フィットネスホール」での筋トレの傍ら、センターが取り組んでいる様々な事業を眺めていると、今後増加する高齢者(我々自身)の介護・福祉対策にどのように対応すべきか、準備すべきかについても、いくつもの示唆に富むヒントを感じます。障害を受ける前の市民がどのように思って行動しているのかも肌で感ずることができます。日常診療の場では得られない体験です。センターに通う医学生にとっても、将来、必ずや役立つでしょう。
「フィットネスホール」の利用者が少ないことは、私にとっては僥倖ですが、設置者の新潟県としては多少気になるようです。多数の利用者を想定して用意された(フィットネスホールに隣接する)温水プールは今も閉鎖されたままです。