田邉 肇
十年ほど前、『恋をして(鯉を食して)愛を育てよう』と、彼女のいない数人の独身の男性MRさんを誘って鯉を食べ、コンパニオンのお嬢さん方をお呼びする会をしました。料理を食べ待つことしばし、若い野獣たちの期待と妄想は大きく膨らみ、おかみさんの「お着きになりました」の声が聞こえた時は最高潮に達しました。しかし、襖を開けて入ってきた瞬間、笑顔はこわばり、声は一オクターブも下がり、肩は一気に落ちました。全員、彼らの母親ほどの熟女の方々だったのです。落胆の程いかに、あとはご想像にお任せします。食後のアフターを振り切り、タクシーを飛ばして古町で飲み直したのは間違いございません。その後、皆さん程無く幻想を捨て、悟ったように次々とご結婚されました。そして、今では家畜のように従順で幸せな毎日を送っております。
すみません、前置きが長くなりました。料理の説明をします。まずは『鯉の洗い』。桜色より少し濃い赤身で、よく鮃の刺身にたとえられますが、身はよりしまっていてシコシコで、噛めば噛むほど旨みのある味が湧き出してきます。川魚の臭みはみじんもなく、鍾乳洞の伏流水で身を引き締めた鯉は、修行僧のように清らかです。次に『甘露煮』。飴色のテカリが素晴らしく、甘く濃厚に煮てありますが、決してくどい味ではありません。特に鱗(大きい鯉だと親指の爪ほどの大きさがあります)と内臓はこたえられません。鱗なんか食べられるのか?と疑っているあなた!一度食べたら不思議な食感のとりこになり、次からは真っ先に箸が伸びます。最後に『鯉こく』。一口ゴクリと飲めば、独特の滋味が胃の皺壁からじんわりと浸み込みそして蠕動し、「ああ、これは体にいいな!」とすぐにわかります。昔、鯉は産後の褥婦の体力回復と乳の出をよくするために好んで食されたとききますが、男の私は、食べてもただただ美味いだけです。また、鯉だけでなく春は山菜、秋はキノコと四季折々近くで取れた食材も美味しく出してくれます。
おまけもあります。其の壱、ポリタンクを持って行けば帰りに湧水を持ち帰れます。其の弐、前もって頼んでおけば、お風呂にも入れます。その際は、パンツのご用意を。
場所は、五泉市(旧村松町)大沢峠の鍾乳洞の隣、携帯の電波も届かない一軒家です。最後にご忠告、山の狸か狐に化かされるかもしれません。ご用心のほどを!
活鯉・山菜料理 亀徳泉
住所 | 新潟県五泉市刈羽乙1360 | |
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電話番号 | 0256−57−2971 |