新潟市医師会報より

フェルミエ

黒田 千亜紀

昨年5月のことだった。土曜日の朝、NHKテレビで紹介された葡萄畑の光景と、その清々しさに強く惹かれ、即、翌日のランチタイムを予約した。葡萄畑を見渡せるフレンチレストランだ。

観光客の喧騒から少し外れた場所に、そのお店はあった。アプローチの小径を歩くほんの数メートルが、これから始まるおとぎ話の序章のようで、すでに気分は高まっている。

店内では何組かの2人連れの方々が、テーブルを挟んで静かに食事を楽しんでいる。

席についてコースを注文。ワインペアリングコースでは、お皿ごとに合ったワインを提供してくれる。私はアルコールが飲めないのだが、最近はノンアルコールの種類も豊富で、随分楽しくなってきた。

お皿が運ばれる度に、見た目にも大変美しくワクワクする。全てのお料理に言えるのだが、手間をかけたのか、素材を厳選したのか、あるいはとてもセンスが良いのか、とにかく飽きさせないし、裏切らない。平たくいうと、どれもとっても美味しい。

窓の外に目をやると、葡萄畑の柔らかな若葉が晴天にきらめき、真紅のバラがかすかに揺れる。背後に感じる厨房の手際のよい音が、料理人の腕の良さを物語っているようだ。

時を置かずテラス席にも伺い、アラカルトと飲み物を注文。ウグイスが鳴き、ヒバリが空高くさえずる。ほのかに香るバラの香り、揺れる紫蘭。角田の土の息吹や葡萄畑の生命力まで感じられるところは、室内とはまた異なる一興だ。

今年も、風薫る5月にワンコ連れでテラス席にお邪魔した。よく冷えたサーモンオレンジ色のモクテルはミントが爽やかさを添え、美しさも味も、お料理の脇役には納まらない。生ハムのサラダはグラナ・パダーノが味を引き締めている。ピザはマルゲリータにクワトロフォルマッジ。チーズの匂いに誘われてワンコがうらめしそうに鼻先を舐めている。

次回はまた、室内でゆっくりコース料理を頂きたい。雪降る夜なんていいかも知れない。五感を満足させる稀有なレストラン、静かに流れる時間が、いつまでも続きますように。

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