副会長 永井 明彦
明けましておめでとうございます。新潟市医師会では一昨年、藤田一隆先生が2期目の会長に選出され、就任のご挨拶で「強い医師会づくり」、「個の充実」、「医師会からの発信」を挙げました。発言力のある強い医師会づくりのためには組織率の向上が必要です。D会員(研修医)の医師会費を無料化するなど、会員数常時1,600名超えを目指し「強い医師会づくり」のため地道な努力を継続しています。「個の充実」については、執行部役員が事務局職員のサポートを得てテーマ別に業務を設定・継続し、その道のエキスパートになることで達成できます。最後の「医師会からの発信」としては、他の郡市医師会や国会・市会議員、さらには地元マスコミとの積極的な意見交換を通じて、医療や福祉に対する医師会の考え方を発信し、地域の住民の方々の理解を得ていきたいと考えています。
さて、昨秋の総選挙で国難を強調して政権を維持した自公連立内閣は、米国製“防衛装備品”の購入に莫大な税金を投入することになりました。しかし、国家の安全保障にとっては、軍備を増強するより外交努力で国家間の紛争を回避することの方が重要ですし、“平時の安全保障”としての皆保険制度を維持し、社会保障や教育に国家予算の多くを割くことの方が国の将来にとってより大切な筈です。働き盛りの国民が差別なく適切な医療を受け健康な生活を享受することができ、働き方改革で労働条件が改善され、家族の介護のために離職を強いられることなどないようにするには、社会保障費の増額が必要です。社会保障の充実は廻り廻って経済的な乗数効果を高め、我が国の経済成長と社会の安定と繁栄に繫がると考えられています。
日医の横倉会長は世界医師会の会長就任演説で、医療が世界全体の社会的共通資本となることを理想に掲げました。“社会的共通資本social common capital”とは、経済学者で東大名誉教授の故宇沢弘文先生が提唱した概念で「豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を維持することを可能にする社会的装置」を意味します。先生は日医総研創立10周年記念シンポジウムでも講演されましたが、医療を経済に合わせるのではなく、経済を医療に合わせるべきであり、医学や医療の分野に、経済的合理主義を短絡的に導入してはいけないという主張を、経済学を用いて展開しました。先生の「医療の本質とはサービスではない。“信任fiducial duty”である」との考えは、我々日本人に最も欠けているnoblesse obligeの精神にもつながる崇高なものだと思います。更に先生は「経済は健康や貧困の格差を是正するためにある」とし、「医療者は経済学者と同様に明確な理念と情熱、即ちwarm heart with cool mindをもって医療を行う必要がある」ともおっしゃっています。2014年の先生の逝去後、講演録などを編集した『人間の経済』(新潮新書)が、昨年4月に上梓されました。宇沢先生の思想の伝道者の役割を果たしているのが、先生の長女で内科医の占部まり氏(日本メメント・モリ協会代表理事)です。占部先生の活動と実践を通じ、改めて宇沢先生の教えを噛み締めたいものです。
今年は診療報酬と介護報酬の同時改定が行われます。経済成長を促し、地方創生にもつながる医療従事者の処遇改善のために両報酬のアップを期待したいと思います。超高齢化社会を迎え、医療や介護を取り巻く環境はますます厳しさを増していますが、藤田会長の下、執行部は一丸となって医師会活動に邁進したいと思います。最後になりますが、会員の先生方の本年、戌年のご健勝・ご多幸・ご発展をお祈り申し上げ、年頭のご挨拶といたします。
(平成30年1月号)