副会長 永井 明彦
明けましておめでとうございます。新潟市医師会では昨年、藤田一隆先生が3期目の会長に選出され、就任の挨拶でスローガンとして「原点回帰」を挙げられました。医師会の執行部も「医師会綱領」に立ち返って初心を忘れず、活動していきたいと考えております。
さて、“災害列島”日本は昨年も地震や豪雨や台風などの自然災害に見舞われ、災害に対して脆弱な国土の現状がこれまで以上に露わになりました。平成最後の昨年の「今年の漢字」も“災”でしたが、縦割り行政のバラバラな対応を見ていると、一部で言われるような「防災省」設立の必要性を感じました。阪神淡路大震災以降、災害医療体制が整備され、発災直後にはDMATやDHEATが駆けつけ、各地の医師会もJMATを派遣するのが当たり前になりました。しかし、災害が起こる度に痛感するのは、体育館などの避難施設の貧弱な状況と、避難住民の災害関連死が後を絶たないということです。一昨年の熊本地震では地震そのものの被害で50人が死亡しましたが、避難所の劣悪な環境がもたらす災害関連死が200人にも上りました。
国際赤十字の「スフィアsphere基準」をご存じでしょうか。最近、認知度が上がってきた紛争や災害時の避難所の設置基準です。それによると、避難所では世帯毎に覆いのある生活空間を提供してプライバシーを保護し、一人あたり最低3.5平方メートル、畳2畳分のフロア面積を確保する必要があります。同じ地震国イタリアでは、発災直後に「市民保護局」が空調を備えたテントと避難した人数分のベッドを用意するそうです。災害救助法が1947年に施行されたままの日本では、スフィア基準の適用はとても無理で、せめて雑魚寝を避け、足を伸ばして眠れる段ボールベッドを設置してエコノミークラス症候群を予防しなければなりません。場合によっては国は避難所としてホテルや旅館を借り上げる必要もあります。新潟大学医学部では災害医療教育センターの高橋昌特任教授が科研費で「発災~復興まで支援する災害医療人材の養成」プログラムを推進し、呼吸循環外科の榛沢和彦先生が深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)検診で活躍し、災害医療に貢献しています。
ところで、西日本豪雨では愛知県岡崎市の消防署に全国で唯一配備されている全地形対応特殊車両レッド・サラマンダーが総務省の要請を受けて出動しました。この車両は一般車両が通行できない荒れた不整地や瓦礫上をキャタピラで走破でき、傷病人の救助や緊急物資の輸送も可能です。1台1億1千万円もしますが、その高い性能を考えると決して高価とは言えません。各県に2台配備してもオスプレイ一機分でお釣りが来ます。オスプレイのようなポンコツ防衛装備品と言えば、F35ステルス戦闘機AB両型合わせて105機の購入に政府は米国の言い値で1兆円支払うことになりました。それだけの予算があるならば何故、災害対策は勿論のこと、社会保障や教育に税金を投入しないのでしょうか。しかも病院船を建造するというならいざ知らず、専守防衛の国是を逸脱して護衛艦を攻撃型空母に改修し、災害救助にも使えるなどとの詭弁を弄するに至っては開いた口が塞がらない。米国大統領にcourtier(廷臣)のようにへつらう品格なき日本政府は誰のための政治を行っているのでしょう。日本は米国の第51番目の州だと揶揄されても仕方がないですね。
超高齢化社会を迎え、医療や介護を取り巻く環境はますます厳しさを増しています。藤田会長の下、今年も執行部は一丸となって医師会活動に邁進したいと思います。会員の先生方の本年、亥年のご健勝・ご多幸・ご発展をお祈り申し上げ、年頭のご挨拶といたします。
(平成31年1月号)