新潟市医師会 副会長 浦野 正美
近年、医師の働き方改革について様々な議論が行われています。特に医師の場合はその業務の特殊性から、国全体としての働き方に対する考え方との整合性を取りつつ、地域医療に支障が出ないようにバランスを取っていくことが求められています。
有効と思われる施策の中で注目すべきものとして、地域に密着したICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)の実用化推進やAI(人工知能:Artificial Intelligence)の活用が挙げられます。
今回は昨年の9月から新潟県でプロジェクト推進委員会が活動を始めた、「にいがた新世代ヘルスケア情報基盤プロジェクト」について少し解説したいと思います。本計画は健康立県を提唱する、花角英世新潟県知事の重点政策の一つであり、正式には「健康・医療・介護分野の連携による、新潟県民のための健康寿命延伸と最善のケア・サポートを実現する新世代情報基盤構想」というものです。
これは最近、注目されている、いわゆる医療ビックデータの利活用計画に基づくものですが、それに新たに県民目線を取り入れて、より実践的なものに改編した企画となっています。本プロジェクトには慶応大学医学部医療政策・管理学教室の宮田裕章教授を新潟県福祉保健部健康情報管理監(プロジェクトリーダー)に迎え、他5名の委員で今後の様々な方針について検討しており、渡部透新潟県医師会長のご高配により、新潟市医師会からも私が委員として参加しています。
この計画の目指すべき方向性としては、県民や関係諸機関のニーズを把握し、それに基づいて個人情報保護に配慮しながら、健康・医療・介護のデータの連携によるデータベースを構築します。そして、県民、医療・介護現場、保険者、学術団体等がそれを幅広く活用し、県民の健康寿命を伸ばして、いつまでも自分らしく暮らせる社会を目指すというものです。
本年度は約1億4千万円の予算がついたため、事務局設立の準備とデータベース構築のためのベンダー選定を行う予定です。まずは健診とレセプトデータから集積しはじめ、最終的には県内医療機関の電子カルテ、各種がん検診、学校健診データなどを幅広く集めます。その後、国のICT化政策との整合性を取りながら、糖尿病やフレイルを足掛かりに、各疾患データの分析、県民への還元を予定しています。また当会のSWANネットのような県内各地域においてすでに活動している地域医療連携ネットワークとの連携も開始する計画です。
具体的な作業は始まったばかりですが、こうしたデータの集積、分析により、より効率的で、エビデンスのある質の高い医療の実践が可能になり、ひいては医師の労働環境改善にもつながると期待されています。また蓄積したデータの詳細な検討により、新潟県民版のAIを活用した診療補助システムの開発にもつながると
考えられます。詳細は新潟県のHPに記載されています(http://www.pref.niigata.lg.jp/fukushihoken/1356909249335.html)。
限られた医療資源を効率的に活用するのにはICTの力を借りて地域力を発揮することがなによりも重要と考えております。
(令和元年9月号)