新潟大学大学院医歯学総合研究科
整形外科・リハビリテーション学分野 教授 川島 寛之
令和2年7月1日付で、新潟大学整形外科学教室の第7代教授に就任しましたので、本紙面をお借りして、新潟市医師会員の先生方にご挨拶をさせていただきます。私は、神奈川県の出身ですが、小児科医である父親から自身の母校である新潟大学医学部への進学を勧められ、平成2年に本学医学部に入学しました。学生時代は陸上競技部に所属し、中距離を専門として、主将も経験させていただきました。平成8年に卒業すると同時に、第5代教授高橋榮明先生が主宰されていた整形外科学教室へ入局しました。その後、第6代教授に就任された遠藤直人先生のもと、大学院で「骨肉腫に対するアデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療」について研究を行い平成15年に学位を取得しました。大学院を卒業後は、2年余り米国テキサス州のMDアンダーソンがんセンターへ留学する機会を得て、肺がんに対する遺伝子治療と、分子標的薬に対する治療抵抗性の克服に関する研究を行いました。平成18年に帰国したのちは、一貫して本学で骨・軟部腫瘍を専門に診療、研究、教育に従事してきました。
現在、日本では二人に一人ががんに罹患し、三人に一人ががんで亡くなる時代だといわれていますが、運動器のがんである、骨・軟部肉腫の発生頻度はすべてのがんのうちの1%程度といわれています。骨原発悪性腫瘍の代表である骨肉腫に限っては、人口100万人当たり年に2~3人の発生頻度となっており、希少がんに分類されます。一方で、がん医療の発展によりがん罹患後の生命予後は改善し、がん患者の診療において骨転移に遭遇する機会は増えています。実際、一般整形外科医にとっては、骨肉腫を診ることは一生に一度あるかないかだと思いますが、転移性骨腫瘍・がん骨転移は日常的に遭遇する疾患となっています。剖検例からの検討では、乳がんや前立腺がんでは75%に、肺がんや甲状腺がんでは50%に骨転移がみられたという報告もあります。がん骨転移は、その多くが溶骨性病変を形成し、骨脆弱化を引き起こすことで疼痛や病的骨折の原因となり、さらに脊椎転移による神経障害や麻痺のほか、高カルシウム血症を生じるなど、進行期がん患者のQOLを著しく低下させます。現在、日本整形外科学会が中心となり、がんロコモ(がんとロコモティブシンドローム)への働きかけを行っており、がん骨転移のみならず、がん患者に発生する運動器疾患に対して積極的に介入することで、がん患者における日常生活動作の維持・改善に貢献できるよう努めています。
一方で、高齢化社会における医療では、がんに限らず、骨粗鬆症、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルなどの運動器に関連した疾患や病態への注目が集まり、患者の増加とともに、整形外科・リハビリテーション科が果たすべき役割と重要性も高まっています。新潟県の医師不足は多分に漏れず、整形外科にとっても重大な問題であり、医学部生や研修医の勧誘による増員は喫緊の課題です。さらに医療の高度化と専門化により、整形外科の医療も個人による横断的な治療は難しくなってきています。高まる需要に対応し、限られた人材を適材適所に配置して、病病連携・病診連携により必要十分な医療を届けることが肝要であると考えます。新潟市医師会員の先生方におかれましては、これからの整形外科・リハビリテーション医療の発展のために、引き続きのご支援をいただけますよう、なにとぞよろしくお願いいたします。
(令和2年11月号)