新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学分野 教授 猪又 孝元
この度、令和3年4月1日付けで新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学分野の教授を拝命いたしましたので、新潟市医師会会員の先生方に就任のご挨拶を申し上げます。私は糸魚川市に生まれ、新潟県立高田高校を経て、新潟大学医学部を平成元年に卒業後、同第一内科学教室に入局しました。心筋疾患の免疫機序に興味を持ち、平成4年からは大学院に進み、長崎大学生化学教室での国内留学の機会も得ました。その間、細切れながら新潟県内の6医療施設で多くの臨床経験とよき先輩方に出会いました。若いときに新潟の地で叩き込まれた基本は、医療者としての自分の根幹です。臨床のスキルのみならず、「ものの考え方」が形作られた時期でした。治療方針に決断がつかぬとき、今でも「研修医・レジデント時代に師事した諸先輩方ならどう考え、ご助言下さっていたか?」と考えることも少なくありません。その後の独・マックスプランク研究所への留学もまた、多くのノーベル受賞者に囲まれ、自分に夢を持つことを教えてくれました。平成10年から北里大学医学部循環器内科学、引き続き平成28年からは北里研究所病院にてお世話になりました。その地で専門を目指すこととなる心不全領域での治療体系が大きく変わる時代と重なり、いつの間にか学内外で役割を与えていただきました。正直を申し上げると、私の医者人生はどちらかというと、主体性のない、周りに流されてきた感が否めません。多くのチャンスをいただけたのは言うまでもなく、多くの先生方、全てのスタッフからの適切なご指導、ご声援の賜です。この場をお借りしまして、あらためて私を導いて下さった全ての方々に御礼を申し上げます。
さて、私が専門とする心不全は、疾病構造として急速にその姿を変えつつあります。新潟市内にある地域密着型の中規模病院からのデータを見ると、心不全は誤嚥性肺炎に続き第2位の入院疾患であり、平均年齢が85歳(全体の平均年齢は77歳)、院内死亡率は19%に及びます。80歳以上が8割近くを占める年齢分布から、リアルワールドの心不全はもはや超高齢者心不全と同義語に近く、少なからずフレイルと認知症を併発します。終末期医療の議論は避けて通れません。しかも、目の前の高齢者患者が有する病態の主体が心不全としての終末期なのか、はたまた老衰のような自然経年的な終末期なのか、の判断すら容易ではありません。高度医療を担う地域の中核施設が、累積する患者群にどのように対峙し、地域医療とシェアしていくのかが問われています。いずれにせよ、心不全診療では今後、ますます社会的側面が強調され、われわれの全人的なセンスが問われていくでしょう。そのための多面的な体制構築が急がれます。
われわれ循環器内科学教室は、発足から10年となります。実のところ私は、前身の第一内科学教室しか知りません。22年ぶりの里帰りですが、私が思い描くのは臨床・研究・教育の三本柱を王道的に進む教室であり、私を育てていただいた風土です。自由闊達なチームを作り、新潟の地を愛し、ともに循環器診療へ邁進する魅力ある若者を一人でも多く輩出することが私に与えられた使命と考えています。会員の先生方におかれましては、今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
(令和3年11月号)