新潟大学脳研究所 統合脳機能研究センター
臨床機能脳神経学分野 教授 島田 斉
国勢調査結果ならびに新潟県および新潟市が公表している統計データによれば、新潟市は2015年から2020年までの5年間で20,882人の人口減少を認めており、これは福岡県北九州市の21,664人に次いで本邦第2位の減少数であったそうです。一方、65歳以上の人口に限ってみると新潟市はこの5年間で16,446人の人口増加を認めており、その結果として人口高齢化率も26.9%から29.7%と右肩上がりの増加を認めています。平成29年度高齢者白書においては、2020年時点で65歳以上人口における認知症の有病率は16.7~17.5%程度と推定されています。さらに、認知症予備軍ともいえる軽度認知障害についても13%以上の患者がいると見積もられることから、なんと全新潟市民の約11人中1人、65歳以上では約3.3人中1人が何らかの認知機能障害を有していると考えられます。
米国では2021年6月に、認知症の原因として最多のアルツハイマー病の進行を遅らせるはじめての疾患修飾薬であるアデュカヌマブが迅速承認をされました。残念ながら本邦においては同薬の承認は見送られてしまいましたが、近いうちに第二、第三の認知症疾患修飾薬が国内外で承認申請をされる見通しとなっています。このような状況を鑑みると、認知症の治療は現状の対症療法を中心とするものから、早く正確に診断をして疾患修飾薬を用いて進行をさせないようにするという治療へと大きく変わっていくことが期待されます。
現在開発をされているアルツハイマー病の疾患修飾薬の多くは、患者さんの脳内に蓄積をしているアミロイドβやタウたんぱくなどの異常たんぱくを標的として、これらを取り除くというものです。認知症は原因によって、異常たんぱくがたまっている患者さんとたまっていない患者さんがおり、たまる異常たんぱくの種類もさまざまです。当然の話ですが、例えばアミロイドβを取り除く薬をアミロイドβがたまっていない患者さんに投与しても病気は良くならず、副作用ばかりが出てしまうと予想されます。つまり疾患修飾薬を使った治療を行うためには、認知症患者さんの脳内でどのような病的変化が起きているかを含め、今まで以上にきめ細かい診断を行う必要が出てきます。
これまでの日常臨床における認知症診断は、実に4割にもおよぶ誤診が含まれているという、われわれ臨床医にとっては耳の痛いデータも示されています。私が研究で用いているPETイメージング技術を用いれば、生きている患者さんの脳内にアミロイドやタウが蓄積している様子を観察することが出来ますが、すべての認知症患者さんに高額なPET検査を受けていただくことは現実的ではありません。しかし、PET研究によってわれわれがこれまでどのようなケースを誤診してきたのか、MRIや脳血流SPECTを用いて診断するときには何に注意をしなければならないのか、といったことがずいぶんわかってきました。このような研究成果を広く臨床医のみなさまに学んでいただくことで、毎回PET検査をしなくても認知症の正診率をあげることが出来ると考えています。
私は2021年の春に新潟大学脳研究所に着任し、この一年で新潟においても最先端のPET研究をおこなうための体制を整えることが出来ました。今後は先端的な画像研究をおこなうことはもちろんですが、私がこれまでに学んできた認知症診療における画像診断の活用法や誤診の勘所などについて、広くみなさまにお伝えする活動も行っていきたいと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。
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(令和4年3月号)