新潟大学大学院医歯学総合研究科
呼吸器・感染症内科学分野 教授 菊地 利明
2019年12月中国の武漢で報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中に拡がり、本邦の感染者数は累計1千万人に迫ろうとしています(2022年6月現在)。このようなCOVID-19に端を発する社会情勢の変化と、2017年5月の伊勢志摩サミットでも取り上げられた薬剤耐性(AMR/Antimicrobial resistance)対策の推進、という二つの感染症対策を取り巻く流れの中で、今年4月の診療報酬改定では感染症対策が大幅に強化されました。診療所においても日常的に感染防止対策を実施して、さらに地域の医療機関が連携して行っている感染症対策にも積極的に参加することが、診療報酬改訂の趣旨として求められています。
一般にCOVID-19のようにヒトからヒトへ拡がる感染症は一つの医療機関だけで対応できるものではなく、医療機関同士が連携したネットワークでの対応が必要です。また微生物の薬剤耐性についても、耐性化した微生物は、それを保有する患者の移動を介して医療機関の間を伝播しますから、やはり医療機関同士が連携したネットワークが重要となります。
そのような観点で、今回診療所向けに新設された外来感染対策向上加算の施設基準では、新潟大学医歯学総合病院などの感染対策向上加算1の医療機関が主催する院内感染対策のカンファレンスに、年2回以上参加することが求められております。感染対策向上加算1の病院は、加算1の要件として、感染対策向上加算2または加算3の病院と院内感染対策のカンファレンス(「合同カンファレンス」と呼称)を年4回以上定期的に行っています。今後は、外来感染対策向上加算の算定を目指す診療所にも合同カンファレンスへご参加いただけるように、新潟市医師会と加算1の病院群がシステムの構築を相談しているところです。
また、同じく今回新設された連携強化加算では加算1の病院へ抗菌薬の使用状況などを報告することが、サーベイランス強化加算では院内感染対策サーベイランス(JANIS、「ジャニス」と呼称)または感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE、「ジェイサイフ」と呼称)へ参加することが、それぞれ施設基準として求められています。J-SIPHEには、サーベイランス強化加算で求められる薬剤耐性菌の発生状況に加えて、連携強化加算で求められる抗菌薬の使用状況も登録できますが、J-SIPHEシステムは本稿執筆時点(2022年6月)で無床診療所には対応していません。今年度中に無床診療所向けのJ-SIPHEシステムが整備されるようですので、連携強化加算とサーベイランス強化加算への対応がJ-SIPHEシステムを活用しながら進むと思われます。
以上のように、本年4月の診療報酬改定で新設された感染対策に関わる加算についてそれぞれ施設基準が設けられており、診療所においては感染対策向上加算1の医療機関との連携が求められております。逆に加算1の病院も、その施設基準として、感染対策向上加算の病院に加え、保健所や医師会や診療所との連携が求められています。診療報酬の面で早急にこの相互の連携システムを構築していく必要があります。新潟市医師会会員の先生方におかれましては、このような状況をご理解いただき、どうかご協力の程をお願いいたします。
(令和4年9月号)